長寿動物使い最先端の再生医療や遺伝子探る 熊本大の三浦恭子准教授

ハダカデバネズミを使って再生医療や遺伝子研究を進めている熊本大大学院生命科学研究部の三浦恭子准教授。がんにならない、老化しにくい、長寿といったハダカデバネズミの特性を解明し、ヒトに役立てることができないか探っている=熊本市中央区
プラスチックのケースとトンネルを組み合わせたハダカデバネズミの飼育器。空調管理された飼育室では、15の群れに分かれて250匹が暮らす。
三浦恭子准教授が研究に使っているハダカデバネズミ。アフリカ原産で、ほぼ同じ大きさのマウスと比べ寿命が10倍長いという(三浦准教授提供)

 ハダカデバネズミというユニークな生態を持つ長寿動物を使って、最先端の再生医療や遺伝子探査に取り組む研究者がいる。熊本大大学院生命科学研究部の三浦恭子准教授(38)。2018年度の科学技術分野文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞するなど、老化や健康長寿の秘密に迫る独創的な研究が注目を集めている。

 ハダカデバネズミは、体長8~10センチのアフリカ原産のネズミ。歯が長くて体毛がほとんどないユーモラスな姿で、地面に穴を掘り集団で暮らす。1匹の女王と1~3匹の王様のみ繁殖を行い、ほかの個体は食料調達や子どもの世話など働き役に徹するアリやハチのような社会性を持つ一風変わった哺乳類だ。

 最大の特徴は寿命の長さ。マウスの寿命が2~3年なのに対し、デバネズミは体の大きさがほぼ同じにもかかわらず約30年も生きる。加えて老化が遅く、ほとんどがんにならないという顕著ながん化耐性も持つ。

 三浦准教授は、こうしたデバネズミの特性に着目。なぜ寿命が長く、がんになりにくいのか、遺伝子レベルで研究を進める。「地下や深海など特異な環境に適応した動物はユニークな特性を持つものが多い。この特性が人の役に立たないか探っている」という。

 三浦准教授は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)研究でノーベル医学生理学賞を受賞した、京都大の山中伸弥教授に師事。iPS細胞の誕生にも立ち会い、山中教授の下で体内に移植しても腫瘍化しにくいiPS細胞の開発を進めてきた。

 こうした経験を生かして、三浦准教授は世界で初めてデバネズミのiPS細胞の作成に成功。デバネズミのiPS細胞は、がんを作る遺伝子が働きにくく、加えてがん抑制遺伝子が強く働いて腫瘍を作らないことを突き止めた。ヒトにもあるARFというがん抑制遺伝子が関与しているという。

 このARFを活性化させたマウスのiPS細胞を作ったところ、腫瘍化するリスクが大きく抑えられることが確かめられた。ヒトのiPS細胞の安全性向上につながる技術として期待される。

 ただ、解明できたのはデバネズミが持つ遺伝的特徴の一端。がんに対する耐性のほかにも老化しにくい、長寿といったデバネズミの謎を解き明かす作業はこれから本格化する。三浦准教授は「こうした特性を支えるメカニズムは100以上はあるはず」と予測。一つ一つ地道に解明を進めながら「そのうち数個でもヒトに応用、転用できる技術を見つけたい」と意欲を見せる。

 2010年に慶応大医学部で始めたデバネズミ研究は、30匹でスタート。当初の1年は飼育方法の習得にかかり切りだったという。熊本大に着任した現在は250匹まで増え、研究を下支えする。今後1500匹まで増やし、「ヒトのがん抑制遺伝子を活性化させる薬剤の開発や、デバネズミが作る有望な機能性物質がないか探っていきたい」と話している。(松本敦)

●子育てと研究を両立 「まずは挑戦を」

 三浦恭子准教授は今年1月に第2子を出産したばかり。2歳と6カ月の2人の子どもの母親でもある。研究室にベビーベッドを持ち込み、子育てと研究を両立する忙しい毎日を送る。

 三浦准教授は出産後3カ月で職場復帰。夕方早めに帰宅し、子どもと触れ合い、寝かしつけてから研究室に戻ることもある。子どもを連れた土日出勤もしばしばだが、「研究人生は長い。子育てが大変だからといって、研究を諦めようとは思わなかった」。

 山中伸弥教授の研究室時代は「ビジョン アンド ハードワーク(明確な目標を持ち努力を惜しまない)」の精神をたたき込まれた。「厳しいが、まっとうで熱い先生だった。研究者は誠実であれ、との教えは今も胸の中に残っている」

 三浦准教授のモットーは「やってみれば何とかなる」。研究者を目指す女子学生へ「関心があるなら、まずは挑戦してみることが大切」とエールを送る。

(2018年7月27日付 熊本日日新聞朝刊掲載)

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