【これで勝負!】〈アサヒメッキ、ステンレス鋼発色技術〉ブランド構築し高付加価値化 量産化で下請け脱却へ

 鳥取市に本社を置くアサヒメッキ(社長・木下貴啓氏)は、亜鉛メッキ、ステンレス電解研磨、アルマイトなど総合的に処理加工を行う設備を保有する山陰最大手の金属表面処理専業者。小物~大物、小ロットから大ロットまで対応する。優秀な企業体質ながら「発注先からは下請けの一業者としか見られない」と木下淳之専務は吐露する。この悔しさがステンレス鋼発色技術の開発の原点にある。また、介護用ベッドのメーカーに収めるステンレス部材に電解研磨処理を施していたが、ステンレス独特の銀色の無機質なイメージを払しょくできないかとの思いが、開発に至る着想のひとつに繋がった。

 リサーチの結果、ステンレスの発色自体は可能でも、従来技術ではロットごとの色むらなどがあることから、商業ベースに乗せることが難しいことが判明。その一方で色の変化が可能であれば、さまざまな分野で用途開発ができるとも踏んだ。

 同社は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の平成27年度補助事業の採択を受け、産業技術総合研究所と鳥取県産業技術センターとの協力体制の下でステンレス発色技術を研究開発。1年後には5色程度が発色可能となり、今では純粋な白・黒以外の色は、要望があれば安定的に20色以上発色できる技術を確立した。特色のもうひとつは、「光沢」「半光沢」「艶なし」を実現したこと。「光沢あり」は数社が手掛けているが、色数が限定的。光沢なしと半光沢は同社のみの独自技術である。形状も板にとどまらず、複雑な3次元形状や細かな細工品でも加工を施せる。

 発色技術のノウハウは社外秘。塗装や染色ではなく、特殊な溶液による化学反応の安定化や膜厚を均一にするための微妙な調整を確実に行えるようにし、ナノメートル単位でのわずかな変動をコントロールすることができるようになった。

 同技術の受注拡大には新工場に据える量産ラインの稼働が待たれる。11億円を投じる新工場には、試作ラインの倍の3メートルの横幅の部材が加工できる量産ラインを整備する。すでに多くの有名企業からの引き合いや用途開発の研究が水面下で進行中。

 医療の現場であれば「点滴棒を病気ごとに色別にすれば管理しやすい。手術に用いるメスは銀色一色で現状はカットバンを巻いたりして識別しているが、色別すれば視認性が上がるし、ヒューマンエラーが生じにくい」(木下専務)。建築・工業製品であれば、手すりや浴槽に発色処理を施すことで、差別化の一助となる。自動車部材の分野や、建築分野などにも用途が見込まれるという。

 アサヒメッキはホームページ上で「世界の価値観を一緒にかえよう」と刺激的に呼び掛け、顧客のアイデアと自社技術の融合による高付加価値品の製造を指向している。今年6月には木下専務自らが社長を務める専門商社「オロル株式会社」を設立した。社名は、天空に多様な色を表すオーロラのフランス語読み。ステンレス発色事業のブランドイメージの構築・戦略を練り上げていくことで「コモディティー化からの脱却により、価格競争、下請け気質からの脱却で攻めの企業になる」(同)。

企業概要

■本社所在地=鳥取県鳥取市南栄町1番地

■資本金=2600万円

■生産拠点=本社工場(鳥取県鳥取市)、米子工場(鳥取県米子市)

■従業員=61人

■業績=2017年3月期・売上高5億円

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