にぎわいの中心はどこ

 移転前の県庁舎は、江戸時代に長崎奉行所西役所があった場所に立っていた。岬の突端で、向かい側には出島。数百年にわたって中心官庁が置かれていた由緒ある場所だ▲長崎の古くからの商業地域はその東側に形成された。人の出入りが多い役所や貿易拠点の出島のそばには商売のチャンスが多い。そこににぎわいが生まれ、豪勢な奉納踊りで知られる長崎くんちを支えるほどに栄え、今に続く中心商店街となる▲そんな長崎市の中心商店街から、県庁が少し遠くなって約7カ月たつ。現在地への移転距離は直線で約800メートル。県全体からみると大した問題ではないかもしれない▲ただ、移転以降、商店街の人通りは心なしか寂しくなった。県庁で働く数千人の職員や関係者が、食事や買い物で日常的に利用してきたのが中心商店街。ともにまちの繁栄を支える関係だったはずだが▲長崎市ではここ20年ほどの間、中心商店街から少し離れた所に、大型商業施設が次々とできた。客が分散し、まちの中心の活力が徐々にそぎとられているとも感じる▲そうして、江戸時代にルーツを持つまちのにぎわいのかたちは、大きく変化しつつある。それと同時に長崎は、土地に刻まれた歴史の奥行きを感じ取りにくい都市になっていく。そんな現状に、複雑な思いがよぎる。(泉)

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