諫干開門確定判決「無効」 国が逆転勝訴 間接強制金は停止 福岡高裁 請求異議訴訟

 国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門の開門を命じた2010年の福岡高裁確定判決を巡り、国が開門を強制しないよう漁業者に求めた請求異議訴訟控訴審で、福岡高裁(西井和徒裁判長)は30日、国が敗訴した一審佐賀地裁判決を取り消し、「確定判決に基づく強制執行は許さない」とする判決を言い渡した。開門しない代わりに、国が漁業者に支払っている間接強制金の停止も認めた。10年の開門確定判決を事実上無効とする異例の判断で、今回の判決が確定すれば、開門を求める漁業者側は最大の“後ろ盾”を失う。逆転敗訴した漁業者側は上告する方針。

 請求異議訴訟は、確定判決の口頭弁論終結後の事情変更を理由に審理する手続き。法務省によると、国が敗訴した確定判決の請求異議訴訟で、国の異議を認めた判決は過去に例がない。開門と開門差し止めの相反する司法判断のねじれが解消され、国が昨年4月に示した「開門せずに漁業振興基金による和解方針」を司法が追認した形となった。漁業者側は「間接強制金の支払いが停止されただけで、開門義務は残る」として、引き続き国に開門を求める構えだ。

 国は控訴審で、確定判決の口頭弁論終結(10年8月)以降の事情変更として「確定判決時の共同漁業権は(10年間の免許期間が経過し)13年8月末で消滅した」と主張。この点について、福岡高裁は「その後に新たに免許された共同漁業権と法的な同一性を有しない。漁業者の開門請求権が消滅したと認められる」と判断。確定判決の開門請求権の前提となる漁業者の共同漁業権消滅を理由に、開門を求める権利を否定した。

 一方、国は6月末までに、間接強制金として12億330万円を支払い済み。返還のためには、国は判決確定後、新たな民事訴訟を通して返還を求める必要がある。

 判決後、斎藤健農相は「一連の訴訟について関係省庁と連携し、適切に対応したい」とコメントを発表。漁業者側弁護団の馬奈木昭雄団長は「13年8月末で開門請求権が消滅したというのならば、それ以降に示された司法判断はすべて誤判ということになる」と批判。今後、別の訴訟を起こす可能性を示唆した。

 ■開門確定判決と請求異議訴訟

 有明海沿岸の漁業者が起こした開門請求訴訟控訴審で、福岡高裁は2010年12月、潮受け堤防閉め切りと漁業不振の因果関係を認定し、「3年以内に排水門を5年間常時開門せよ」と命じた。国の上告見送りで判決が確定したが、国が判決を履行しないため、漁業者45人が申し立てた間接強制で1日90万円の支払いを科されている。国は確定判決に基づく開門を強制しないよう、14年1月に佐賀地裁に提訴したが敗訴。福岡高裁に控訴した。

逆転敗訴し、報道陣に判決内容を説明する馬奈木弁護団長=30日午後3時39分、福岡高裁前

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