世界初!日野が大型HVトラック「プロフィアハイブリッド」を2019年夏発売|AIを活用した燃費向上技術も投入

日野 新型プロフィア PHOTO:日野自動車

「日野環境チャレンジ2050」に向けた第一弾は”プロフィアハイブリッド”

日野自動車は羽村工場で2018年7月17日に開催した環境技術説明会で、大型トラックにハイブリッドシステムを搭載したプロフィアハイブリッドを2019年夏から発売することを発表した。プロフィアハイブリッドは世界初となるハイブリッドシステムを採用した大型トラックで、同社ハイブリッド技術の「第6世代」最初のモデルとなる。

日野自動車は2017年10月に「環境チャレンジ2050」を策定しており、その中の「新車CO2ゼロチャレンジ=製品走行時のCO2排出量90%削減」と言う目標を達成するためには、同社が生産する車両全体のCO2排出量の約7割を、そして国内商用車の燃料消費量の約6割を占める大型トラックの燃費向上が必須と考えている。プロフィアハイブリッドはその取り組みへの第一歩となる革新的な大型トラックである。

意外!? 世界初の大型ハイブリッドトラック

日野 新型プロフィア PHOTO:日野自動車

日本ではすでに乗用車のハイブリッド車が普及していることはご存知の通り。ハイブリッドのバスやトラックも街中で見かけることがあるだろう。

しかしふと考えると、ハイブリッドのトラックは2t積み小型トラック(日野 デュトロ、いすゞ エルフなど)のみで、バスも路線バスがメイン。高速道路を走る観光バスや中型以上の大きなトラックではハイブリッドシステムの採用が進んでいないことに気づく。

実はハイブリッドシステムは、「減速時のエネルギーを電気としてバッテリーに回収→回収した電気を発進加速時のモーターアシストに使用→エンジンの仕事量を減らし燃費を向上させる」システムで、街中での短距離小口輸送がメインの小型トラックや発進・停車を繰り返す路線バスなど、加減速の頻度が多い都市内走行に適しているのだ。

日野自動車のデータでは、小型トラックは一般道路使用が86%なのに対し、大型トラックでは高速道路の走行が57%にも達している。そのため加減速が少ない大型トラックでは従来のハイブリッドシステムではメリットが少なく、商用車用ハイブリッドのパイオニアである日野でも採用が行われていなかった。

そのためすっかりハイブリッド車が普及した現在においても大型トラックのハイブリッド車は存在せず、プロフィアハイブリッドが世界初の大型ハイブリッドトラックとなる。

日野は2010年から大型トラック向けのハイブリッドシステムの研究を開始、2014年から本格開発に着手しており、プロフィアハイブリッドの市販化はその集大成といえるものだ。

大型トラック向けに考え直されたハイブリッドシステムとは

日野 新型プロフィア PHOTO:日野自動車
日野 新型プロフィア PHOTO:日野自動車

世界初の大型ハイブリッドトラックを可能としたのは、従来のハイブリッドシステムとは違う高速道路向けの新しいハイブリッド制御だ。開発のヒントになったのは「大型トラックは小型トラックの10倍以上の回生エネルギーが見込める」「国内主要高速道路では下り勾配も多い」という走行実態だった。

そこで日野は、大型トラックは下り勾配の走行時に大容量の回生が可能という結論を導き出し、「下り勾配や減速時にエネルギーを回生し、再加速時はモーターのみ、上り勾配などの高負荷時はエンジン+モーターアシスト走行を行う」制御を編み出した。

新ハイブリッドシステムは1モーター・パラレル式とし、最高出力380ps/1700rpm、最大トルク175Nm/1100rpmを発生するA09C型エンジンの後ろにクラッチを挟んで最大出力90kW/1100~2900rpm、最大トルク784Nm/1100rpmのモーターを搭載。後輪へは12段AMT(機械式自動トランスミッション)を介して動力が伝えられる。インバーターは197kVA、バッテリーは世界初の内部循環式空冷方式を採用した288V−40Ah(定格容量1.1kWh)の大容量チタン酸リチウムイオンバッテリーを搭載する。

AIやロケーターを活用した燃費向上技術にも注目

日野 新型プロフィア PHOTO:日野自動車

この新しいハイブリッドシステムの制御には、燃費向上に向けてAIと位置情報の技術も投入されている。走行状態適応型アシスト制御では、走行負荷・勾配・エンジンの状態・アクセル開度・バッテリー状態などの車両状態やドライバーの運転の仕方や癖、道路の状況や渋滞などの情報をAIが導入されたハイブリッド制御ECUが判定し、モーターアシスト量や領域を自動で最適化。燃費低減に最適な出力制御を行う。

ドライバーの意志を判断して最適制御を行うハイブリッド省燃費運転支援制御でもAIが活用され、「今はゆっくり走ろう」とか「急がなくては!」などの様々なドライバーの運転意志に対応しAIが運転支援する領域をコントロールする。

また、世界初となる位置情報を活用したハイブリッド制御も注目される。これはバッテリーマネジメント&トルク配分制御と呼ばれるもの。GPS・ジャイロセンサー・車速センサーから自車位置を特定、内蔵地図情報から標高、勾配、位置情報を出力するロケーターECUは、100km先までの道路の標高情報をもとにバッテリーの使い方の大まかなシナリオと、10kmごとの勾配情報によってさらに細かいトルク配分シナリオを作成する。

これらのシナリオをAIが判断して走行負荷を予測、最適なハイブリッドシステムの制御マップを生成することで消費電力のミニマム化と燃費の最大化を実現するという。

日野は「環境チャレンジ」をハイブリッド技術と次世代の車で達成する

日野 新型プロフィア PHOTO:日野自動車

プロフィアハイブリッドの詳細も説明された今回の環境技術説明会では、日野の環境への取り組みについても説明が行われ、日野自動車取締役・副社長 遠藤 真氏が登壇した。

遠藤氏は、これまでも日野は本格的ターボインタークーラーエンジン、エンジン(日本初、1981年)、コモンレールシステム(世界初、1998年)、尿素SCR、新DPR(世界初、2009年~2011年)など革新的技術を開発してきたこと、1991年に世界で初めて商品化された都市内路線バスから四半世紀以上にわたって技術の熟成を進め業界をハイブリッド商用車のパイオニアとしてリードしてきたこと、ハイブリッド車を累計約1万6000台販売してきた商用車世界一の実績があること、ハイブリッド技術を軸にEV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド)、FCV(燃料電池車)などの電動技術の実用化も進めてきたことを解説。続いて「環境チャレンジ2050」に向けた取り組みとして、既存技術であるエンジンの効率化とハイブリッド採用車種の拡大、海外への積極展開、そして「次世代の車づくり」を上げた。

日野の考える「次世代の車」のキーワードは“電動化”

日野の次世代車 PHOTO:日野自動車
日野の次世代車 PHOTO:日野自動車

日野が考える次世代の車とは、ゼロエミッション、静粛性、スムーズな加速、エネルギーコストの低減という電動車の長所と、新たに住宅地や屋内で使用する「場所の拡大」、夜間などでも使用する「稼働時間の拡大」、乗り降りや積み下ろしが楽な超低床車などの「ユニバーサルデザイン」といった社会のニーズを掛け合わせた車両を指す。このニーズを満たせるのは、静かで排気ガスを出さず、設計自由度が高い電動車が最適だ。

ところで、大型トラックの純EVは、現在の技術では実現が可能だとしても普及はまだまだ先ではないかと思われる。長距離移動がメインで積荷を含めた車両総重量(GVW)上限が決まっていて、しかもそれが25tもある大型トラックでは、現在のエンジンをパワーの源にするトラックの性能を満たすためのバッテリーを積んだ場合積載力が著しく低下してしまう。また、価格も高くなるだろう。趣味嗜好のアイテムではなくお金を稼ぐ「道具」である大型トラックでは、購入価格や積載力の多さは大きく販売に左右するのだ。

そこで日野では、環境対策としてまずプロフィアに既存技術の熟成発展となるエンジン+モーターのハイブリッドシステムを搭載して発売した。しかし日野では電動化へのアクションに消極的ということではなく、「次世代の車」の動力となるEV、PHV、FCV用プラットフォームをそれぞれの動力ごとに設計しないで “共通化”する「電動化プラットフォーム」開発を進めていくという。共通化は制御にも及び、開発時間やコストの低減をさらに大きく図ることが可能となる。

すでに実用化されている「次世代の車」

トヨタ「SORA」[量産型燃料電池バス](FCバス)試乗[2018年4月20日/国土交通省(東京都千代田区霞が関)]
日野 ポンチョEV

一方、すでに登場して実用化されている次世代の車、今後実用化が予定されている次世代の車も解説された。すでに実用化されているモデルとしては低床小型バス「ポンチョ」を改造して2012年から東京都羽村市などで実証実験が行なわれている小型EVバスや、FF化して荷室部を低床化したEV配送トラック(2013~2014年モニター運行)、限定発売されて稼動している観光/自家用中型バス「メルファ」のPHV仕様(2016年)、トヨタブランドで2017年発表・2018年発売開始の大型FCV路線バス「SORA」など。

今後投入が予定されているのは、FFのEV専用プラットフォームを活用した荷物の積み下ろしがしやすい宅配用の小型EVトラックなどがそれにあたる。

このように、多種多様な商用モデルに対して日野では様々なアプローチを取って次世代の車の開発が進んでおり、これらの技術と車両によって現実の状況に合わせて漸次電動化が進んでいくと思われる。

プロフィアハイブリッドに同乗試乗!

日野 新型プロフィア PHOTO:日野自動車

環境技術説明会では、プロフィアハイブリッドのお披露目と同乗走行も行われた。今回4台の試乗車が用意されたが、いずれもバンボディを背負ったカーゴで、シャーシは3軸と4軸、キャブは座席後部にベッドスペースを持つフルキャブ+標準ルーフ+ウインドでフレクターとショートキャブ+スーパーハイルーフの組み合わせだった。

ディーゼルエンジンモデルと外観上の差は少なく、キャブ左右のハイブリッドロゴの有無、グリルの最上端がブルーになっていることくらいだ。

日野 新型プロフィア PHOTO:日野自動車

ハイブリッド車ならではの装備であるバッテリーは後輪車軸から後ろのフレーム端部に搭載される。ラダーフレーム構造のトラックのシャーシではエンジン、トランスミッション、燃料タンクなどの搭載位置が決まっておりプロペラシャフトも通っているためにバッテリーの場所は自ずと決まったという。インバーターは1軸目の後ろ左側に設置される。

最大積載量はバッテリー搭載などを行っても、お披露目で使用されたバンボディの場合で12.6tを確保している。

大型トラックは車両総重量=GVWが25tなどと決まっているため、キャブ、シャーシ、エンジン、タイヤなどを含めた車両本体の重量、およびシャーシに架装される平ボディの荷台や箱型のバンボディの重さ、乗車定員をGVWから引いた数値が「最大積載量」となる。通常のトラックよりもバッテリーなどの補機類が多いハイブリッドトラックでは、その分積載量が減ることになる。

エンジンの音がほぼしない驚きの高速走行

日野 新型プロフィア PHOTO:日野自動車
日野 新型プロフィア PHOTO:日野自動車

同乗試乗は、日野の羽村工場テストコースにある高速周回路を用いて開催された。体験試乗となるため参加者はプロフィアハイブリッドのセンター席と助手席に乗り込み、日野のドライバーの運転によってコースを3周走行し、その間に加速時のモーターアシスト走行、時速70km/hでのエンジンのみの走行およびEV走行、回生ブレーキ時の効き具合などを体験した。

モーターアシストの有無などはアクセル開度によって調整ができるほか、ある程度のアクセル開度と車速に達した場合にEVモードにすることが可能で、EVモードではエンジンはアイドリング状態となり(この際でもパワステやブレーキなどのためにエンジンオフにはならないが、燃費は40km/Lほどなので影響がないとのこと)、クラッチが切れてエンジンはモーターと断絶されモーターのみでの走行になる。

回生ブレーキはリターダーの1~2段程度の効きだという。プロフィアハイブリッドでは、プリウスなどのようなブレーキ協調回生制御が行われているため、ブレーキペダルを踏んでもエネルギー回生が優先されるようになっている。

70km/hでのEV走行は、これまでの大型トラックとは異なり、アイドリングで回るエンジン音すらほぼ聞こえない。キャブ内はとても静かで、気になるのはタイヤが発するロードノイズくらいだ。しかもエンジン由来の振動もない。長距離移動の際、この静かさは大きな疲労削減効果をもたらすのではないかと感じた。なお、メーター内のマルチインフォメーションディスプレイには、回生(充電)・アシストなどの状態が表示され、どのモードで走行しているか分かる。

社内試験では約15%の燃費削減を達成

日野 新型プロフィア PHOTO:日野自動車

日野では、車両重量は25t、エアコンは25℃のオート設定にした試験車(FW1A改HV)を羽村から厚木を一般道(90km)で、厚木から焼津までを高速走行(270km)させて燃費を実測した。その結果従来のディーゼル車に比べて14Lの燃料を削減。約15%の燃費向上が見られたという。約15%という数値だと、大型トラックの平均年間走行距離を12万kmとした場合約4700Lの燃料を減らせることになり、その効果は絶大だ。

実はこれまでなかった大型ハイブリッドトラック、プロフィアハイブリッド。今後ますます大型トラックにも省燃費化が求められるが、前述のようにすぐに電動化が進むことは現実的ではない。その対応としてまずできることから始めることが必要なのだが、日野は持ち前のハイブリッド技術をその答えの一つとしたことは注目に値する。今後のライバル各社の動向も気になるところだ。

[TEXT:遠藤イヅル/PHOTO:日野自動車・オートックワン編集部]

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