私がネットの出会いをやめるまで  マッチングアプリのリアル(1)

 まわりの友達が1人、2人と結婚し、彼氏とうまくいかない自分が劣っているように思えた。「私も早く幸せになりたい」と焦る気持ちが大きかった。東海地方のインテリアショップで働いていた宮沢(みやざわ)ゆり(26)=仮名=は、2017年1月、24歳の時にマッチングアプリを始めた。彼氏に振られやけくそだった。約60日間でやめるまで、10人以上とメッセージをやりとりし、3人の男性とデートをした。

ワセリン男

 実家近くの喫茶店「コメダ」。どうやって帰ろうか、ずっと考えていた。目の前に座る男性は29歳の薬剤師。登録してすぐメッセージをくれたので会ったが、失敗だった。写真より背が低くて太っていたことや、ダボダボの服を着ていることは許せた。でも会話が成立しなかった。

 趣味、好きな食べ物、家族。何を聞いても「あ、俺も。気が合うね。結婚できそう」と言い続けた。話せずにいると、今度はこちらの唇の荒れに気づき「ワセリン塗ろう」と早口で繰り返した。怖くなり、逃げるように店を出た。その後も「おーい、ワセリン取りに来る?」「ワセリン渡しに行くよ~」とメッセージは届き続けた。

 ゆりは14年3月に大学を卒業後、職場に実家から通っている。2人姉妹の長女でおばあちゃん子。最近はおでこを出しているからか、女優の足立梨花(あだち・りか)に似ていると言われてうれしい。学生時代の、かっこいい男の子を追いかける恋愛は楽しかったし、たぶん得意だった。でも大人になってからはつまずくことが多くなった。

勢いでダウンロード

 アプリ登録のきっかけになった元彼との交際期間は4カ月。大学の同級生で仕事や恋に悩む自分を励ましてくれていたが、付き合い始めた途端にだらしなくなった。千円しか持たず、代わりに食事代を払わされた。海外旅行の費用も立て替えた。返してと頼むと、振り込んでいないのに「振り込んだよ」とすぐばれるうそもついた。

 それなのに最後はこっちが振られた。理由は「重たかったから」。「なんだそれ。あー、すてきな人と出会いたいなぁ」。勢いでアプリをダウンロードした。ためらいはなかった。

 結婚情報誌を出版する会社が運営するアプリを選んだ。登録者のやりとりを会社がチェックし、メッセージ交換のために月3千~4千円払う仕組みに安心した。

 顔写真を登録し、居住地や職業、年収のほか身長と体形を入力。気になる人を探してメッセージのやりとりが始まる。そして連絡が来たのが、ワセリン男だった。

最後までいい人

 最初の失敗で慎重になり、大手企業に勤める人や公務員との交流が増えた。次に会うことにしたのは同い年の電力会社社員。旅行が共通の趣味で、知的なメッセージのやりとりは楽しかった。

 車で3時間の隣県から会いに来てくれ、一緒にイタリアンを食べた。第一印象は静かで優しい人。想像より女性に不慣れなたどたどしい雰囲気だったが、好感が持てた。

 2週間後、博物館に行った2回目のデート帰り。「僕と付き合ってください」。誠実な告白だったけれど、まだ好きになれていなかった。「いつまでも待つ」と言ってくれたが、好きになる保証がないのに往復6時間運転させ続けるのは気が引けた。「ごめん。付き合えん」。

「全然いいよ。ゆりちゃんは悪くない」。最後までいい人だったが、好きになれなかった。

音信不通の自衛官

 「同い年の公務員で年収800万円! これはただ者じゃない」。女子会で友達が面白がったのが始まり。相手は航空自衛隊の管制官で、初デートは焼き肉。プロフィル通り背が高く、振る舞いもスマートだった。

 「ゆりちゃんのこと好きになっちゃったかも」。ウナギを食べに遠出したり、2人でランニングしたりした。お互い平日休みで、一緒に過ごす時間はすぐに増えた。

 家に通うようになって1カ月。「私、彼女?」。思わず聞いてしまった。「そう思ってるけど?」。喜んだのもつかの間、直後に起きた北朝鮮のミサイル発射で忙しくなったという彼は、そのまま音信不通になった。

移動の電車内でスマートフォン画面を操作。マッチングアプリで知り合った男性の写真はもう削除した

それから

 アプリでは若い女性の需要は高い。ちやほやされるのは好きだし、新しい出会いは世界が広がる高揚感があった。でも、膨大な数から相手を選び、一から関係を築くのは疲れた。特に初対面のデートはくたくたになる。元気はもう残っていなかった。

 同じ頃、母親にアプリのことがばれた。「インターネットで知り合った人とは会わないでほしい」。普段口出しをしない母の不安そうな一言は重かった。

 それから1年。今は、友達から「きっと気が合ういいやつ」と紹介された五つ上の男性と付き合っている。病院で働き、家族や友人を大切にする人だ。みんなに囲まれている姿を見ていると、もっと他の表情を知りたくなる。いつも次のデートが楽しみで仕方がない。

 軽蔑されるかもと思い、最近までアプリのことは隠していた。打ち明けると「あほらしい」と笑い飛ばしてくれた。アプリで出会った3人より、この人はしっくり来る。(敬称略、共同=大倉たから27歳)

 新たな「出会いの場」として急速に広まるマッチングアプリ。ホームページには、結婚した幸せそうなカップルの写真が並ぶ。「だけど、本当のところはどうなの?」。恋人に振られて新たな恋を求めたり、地方から外国とのつながりを探したり。実際に利用した3人それぞれのリアルな姿と、拡大を続ける市場の現状を紹介する。(4回続き)

取材を終えて

 マッチングアプリを始めた頃のゆりはとても楽しそうにしていたので詳しく話を聞くことに…。ネット上の情報だけで男性を見極める難しさ、初対面の相手と会い続ける元気を保つ大変さが分かりました。アプリをやめたゆりが「働いている姿や友達と話しているところを見て、もっとこの人を知りたいと思うからデートが楽しみになるんだね」と話していたのが印象的です。胸にすとんと落ちました。「お医者さんと結婚した子は海外旅行ばっかりしてうらやましい~」と言いつつ、手作りのお弁当を持って彼氏と公園や遊園地に毎週末出掛けるゆりがうらやましいです。幸せになってほしいです。(大倉)

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