【MLB】「すごく近くなっている」メジャーへの距離 ヤンキース6年目、加藤豪将の今

メジャー昇格を目指し、ヤンキース傘下2Aトレントンで奮闘中の加藤豪将【写真:編集部】

2013年のドラフト2巡目でヤンキース入り、加藤が感じるメジャーへの距離

 ヤンキースが米在住の日本人高校生内野手をドラフト2巡目で指名――。2013年6月、驚きのニュースが日本に届いた。名門球団への入団が決まったのは加藤豪将。日本ではほとんど名前を知られていなかったが、実はMLB球団のスカウトの間ではドラフト上位候補として注目を浴びる存在だった。あれから5年。23歳になった若者は、27度の世界一を誇るヤンキースでのメジャーデビューを目指して、確実にステップアップしている。

「お久しぶりです。こんなところまで来ていただいて、ありがとうございます。日本語を話すのは3か月ぶりなんですよ。いつも英語とスパニッシュ(スペイン語)ばっかりで」

 ニューヨークから車で3時間度のところにある小さな町、ビンガムトン。敵地での試合のため、同地を訪れていたヤンキース傘下2Aトレントンの加藤は、こう話して笑みを浮かべた。米国だけでなく、中南米の国からも有望株が集結するマイナーリーグ。生存競争は過酷だが、メジャーリーグまであと2ステップというところまで這い上がってきた。

「2Aに今いるので、本当に自分としてはすごく近くなっている気がする。あと少しなので、メジャーに行くのがもちろんゴールなので、できるだけ早くいきたいです」

 2013年にヤンキースに入団した加藤は、1年目のルーキーリーグで50試合に出場。打率.310、6本塁打、25打点、OPS(出塁率+長打率).924、4盗塁という好成績を残し、ガルフ・コーストリーグのベストナインにも選出された。しかし、2014、15年と1Aチャールストンで苦戦。ルーキーリーグへの“降格“も経験した。

 それでも、昨年は1A+タンパで84試合に出場して打率.293、6本塁打、43打点と好成績をマーク。1年でステップアップし、今季、初めて2Aでプレーしている。

 入団当初は線の細さも目立ったが、体は確実に大きくなっており、2Aのチームメートと比較しても頑丈に見えるほどになった。身長188センチの加藤は「シーズン中はけっこう体重が落ちちゃうので、できるだけ食べています。200ポンド(約91キロ)くらいをできるだけ保とうとしているんですけど、スプリングトレーニングとかは195ポンド(約88.4キロ)をできるだけキープして、それをシーズン中にメンテナンスをしてキープする感じです」と話す。

加藤豪将は内野の全ポジションを守るなど、ユーティリティープレーヤーとしての立場も確立【写真:編集部】

ユーティリティープレーヤーとして活躍も「最終的にはメジャーのセカンドに」

 トレントンではここまで94試合に出場し、打率.246、5本塁打、31打点。元々、打率に対して出塁率が高い選手だが、今季も.339をマークしている。クリーンアップを任される試合が多く、打線に欠かせない存在だが、当然、打撃成績は納得できるものではない。

「もちろん上げていきたいです。(2Aに初めて昇格して)やっぱりアジャストメントの時間があるので。自分がピッチャーに対してアジャストメントをすると、相手もそれを見てアジャストしてくる。シーズンは長いので、波はあるんですけど、2Aにくると、アジャストメントの時間がかなり早くないとスランプが長くなってしまう。それがよく分かりました。

 オールスターブレークが終わって、セカンドハーフが始まった。けっこう大事な時なので、すごく楽しみです。まだシーズンは長い。マイナーでは、最後がよければ来年につながる、と言われています。本当に大事な時になってきています」

 一般的に、マイナー組織は1Aと2Aのレベルの差が最も大きいと言われている。2Aと3Aの差はそれほどではないとされ、2Aから一気にメジャー昇格を果たす若手もいる。逆に、メジャーから2Aに降格するというケースもある。つまり、ここで結果を残せれば、最後のステップも見えてくる。

「(ピッチャーは1Aと比べて)ファストボールのスピードとかはあまり変わらないんですけど、コントロールがかなり良くて、バッターが有利なときでもスライダーだったり、チェンジアップだったり、カーブを投げるというのが多くなっていますね」

 対峙する投手のレベルは確実に上がっているだけに、そこにどう対応していくのか。まさに後半戦が勝負となる。

 一方、守備では内野の全ポジションを守るなどユーティリティープレーヤーとしての立場を確立。だが、これはあくまでステップの1つだと本人は考えている。

「ヤンキースが自分のアスレティシズムをできるだけ使いたいという感じで、いろんなポジションをプレーさせています。いろんなポジションでプレーできればメジャーに入りやすいとも言われてるんですけど、最終的には自分はセカンドをやりたい。メジャーに行くにはいろんなポジションをプレーして、できるだけ打席に立てるのがいいんですけど、最終的にはメジャーのセカンドのオールスターになりたいです」

 元々、俊敏な動きを活かした守備に対する評価は高いだけに、本職のセカンドへのこだわりは強い。ヤンキースでは今季、超有望株とされてきたグレイバー・トーレスがセカンドのポジションを確保。エンゼルスの大谷翔平投手を抑えて新人王の最有力候補という高い評価を手にしている。2Aまで昇格してきた加藤にとっては、大いに意識しなくてはならない相手だろう。

「夢は『ヤンキースタジアムのセカンドにいる自分』。それしか考えていない」

 このトーレスとは一緒にプレーした経験はないものの、現在のヤンキースを主力として支える選手たちとは、マイナーリーグで一緒に汗を流してきた。

「ジャッジ、バード、セベリーノ、サンチェスとプレーしたことがありますが、そういう選手がメジャーのレベルで活躍している。自分も同じことやりたいなと思います」

 昨季のリーグ本塁打王&新人王のアーロン・ジャッジ、一塁手のレギュラーで主軸を任されるグレッグ・バード、今季サイ・ヤング賞獲得も期待されるエース右腕のルイス・セベリーノ、そして、正捕手でありながら4番を打つことも多いゲーリー・サンチェス。まさに、現在のヤンキースを牽引する若きスターたちだ。

 特に、昨年スーパースターとしての地位を確立したジャッジは同じ2013年入団。ドラフトではジャッジが1巡目、加藤が2巡目だった。もっとも、かたや大卒、かたや高卒と年齢は離れており、水を開けられたという見方は正しくない。2Aでは同世代の選手も多いものの、現在のロースターの平均年齢は24.5歳で、加藤はまだ若い部類に入る。これからの選手ということだ。

 今年のスプリングトレーニングでは、初めてメジャーのオープン戦に呼ばれ、ベンチ入りも経験した。これも期待の表れと言える。

「スタンドで見るのとは全然違いました。フィールドで違うのがよく分かりました。やっぱり野球のレベルが上がるほどスピードが変わるというのが。走るスピードだったり、投げるスピードだったり、メジャーの選手は速いんですけど、しっかりゆっくりとプレーできるというのがよく分かって。その中でもみんな落ち着いてにプレーしていました」

 最高レベルのプレーを“肌”で感じて、得るものは多かったようだ。

 あと2つのステップ。メジャーに昇格するために必要なものは何なのだろうか。加藤は「(課題は)本当にすべてなんですけど……」と言いつつ「一番難しいのはメンタルだと思います」と自己分析する。

「野球のスキル的には本当にもう少しだけなんですけど、やっぱりどんどん上がっていくとチームメートでも分かるんですけど、メンタルの強さが全然違うので。それは1つの課題です」

 今季、衝撃的なデビューを果たした同い年の大谷ら、日本で圧倒的な成績を残して海を渡った多くの日本人投手が、現在米国で奮闘している。全く違う道を歩んで地道に這い上がってきた加藤がメジャーデビューを果たし、対戦が実現すれば、間違いなく注目を浴びることになるだろう。だが、まずはその舞台に辿りこと。加藤はそれしか考えてない。

「やっぱりメジャーに行くのが自分の目標。本当にどのピッチャーと対戦したいとかじゃなくて、夢は『ヤンキースタジアムのセカンドにいる自分』。それしか考えていないです」

 ドラフト指名からメジャーへの道を切り拓く日本人野手。“パイオニア”として、加藤は確実に歩みを進めている。(Full-Count編集部)

© 株式会社Creative2