「リレーコラム」ロシアで積んだ貴重な経験 サッカーW杯に同行したU―19代表

セネガル戦に向け調整する、日本代表の槙野(左)、武藤(右)ら=カザン(共同)

 生き生きとした表情が印象的だった。サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会を経験した“日本代表”の話ではあるが、長谷部誠や本田圭佑の話ではない。チームに同行したU―19(19歳以下)日本代表の23選手のことだ。

 ドイツ代表やアルゼンチン代表などでは以前から行われていたというが、日本サッカー協会は今大会、初めて世代別代表をW杯に同行させた。

 J1で出場機会をつかんでいる田川亨介(鳥栖)や安部裕葵(鹿島)、橋岡大樹(浦和)、17歳の久保建英(FC東京)らが参加。ベースキャンプ地のカザンにフル代表と一緒に滞在しながら練習を手伝い、1次リーグのコロンビア戦などをスタジアムで観戦した。

 W杯を生で見るのは初めてという選手ばかり。試みの成果を端的に物語っていたのが、チームを率いる影山雅永監督の言葉だ。「『お前ら、うるさい!』っていうくらいテンションが高い。目の前に、自分が目標としている大会や選手がいることで、内なるものがかき立てられているんでしょうね。サッカーがしたくてしょうがない状態になっていた」

 フル代表との練習などはもちろん貴重な経験だったと思うが、何より大きかったのは世界最高峰の戦いを五感で感じられたことだろう。

 互いの威信を懸けた熱戦を間近で見て、選手の一挙手一投足に泣き笑うファンの声を聞き、フル代表と一緒にチャーター機での移動を体験し、笑顔で出迎える宿舎の従業員とハイタッチを交わした。

 帰国後のJ1で早速、得点した安部はこう振り返っている。「(観客)みんなが選手と一緒に泣いて叫んでいる姿を見て、人を感動させられる立場にいると実感した。人に影響を与えられるサッカー選手になりたいと思った。自分が思っているよりもこのスポーツは偉大なものだった」

 「W杯の雰囲気を少しでも多く体感してもらいたい」という代表スタッフの計らいもあった。

 フル代表が試合開催地に移動した後のベースキャンプ地で、地元クラブと練習試合を行ったときのこと。

 メディア関係者もほぼ移動し、わずかに残った報道陣はピッチの隅などでU―19の選手を取材するつもりだったが、フル代表の取材用の大型テントが開放された。

 テント内にはぽつぽつと記者がいるだけだったが、4年後には幾重もの人垣に囲まれている選手がいるかもしれない。

 現在のU―19代表は原則23歳以下で戦う2年後の東京五輪にも絡む世代であり、20代前半となる4年後のカタールW杯ではメンバー争いに食い込んでいくことが期待される。

 「刺激だらけというのが正直なところ。経験を力に変えられるように頑張る」と真っすぐ前を見据えて言っていた久保の思いは、チーム全員が共有していることだろう。

 これまで出場した6大会で最高の平均年齢28.3歳のメンバー構成でW杯に臨んだ日本代表は、経験ある選手を軸に奮闘してベスト16入りを果たした。

 一方で大会前から懸念されたのは、若手の少なさ。最年少は23歳で、世代交代の重要性が各所で叫ばれている。

 優勝したフランスで抜群の存在感を見せた19歳のエムバペのように、日本には20歳前後で今大会を戦った選手はいない。だからこそ、日本サッカーの将来を担う若武者たちが、貴重な経験をどう生かすかが重要だ。

 大きなプレッシャーを背負って戦う代表選手の姿、スタジアムの熱量、爆音のような大声援…。ロシアで感じた思いを心に刻んで飛躍していってほしい。

大沢 祥平(おおさわ・しょうへい)プロフィル

2011年共同通信入社。福井支局を経て福岡運動部、大阪運動部に在籍し、プロ野球やサッカーなどを担当した。18年から東京運動部でサッカーなどを取材。埼玉県出身。

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