【新型コロナ】「今度は私が支える番」 ベトナム人一家、マスク7万枚を無料配布 会社前で手渡し、「日本人へ恩返し」

無料で配るマスクに日本への感謝の思いを込めるレーさん(左)と長男の竜崎司さん=横浜市泉区

 新型コロナウイルスの感染拡大に揺れる横浜市内で、ベトナム人一家がマスクの無料配布を始めた。母国の友人から約7万枚を仕入れ、経営する会社の前を行き交う人たちに1袋ずつ手渡していく。類いまれな行動に駆り立てるのは、「日本人への恩返し」だ。窮地に手を差し伸べてくれた地元への感謝を胸に、国籍を超えて善意を届け続ける。支え合いの精神とともに─。

 プレハブ小屋に積んだ段ボール箱から、使い捨てマスクがあふれかえる。同市泉区上飯田町、廃品回収業者「TC成功商会」代表のレー・バン・ルンさん(59)は、「これでも半分以上は配ったんだ。まだまだ仕入れるよ」とはにかんだ。

 コロナ禍に見舞われたまちの光景を眺め、支援を決意した。薬局やホームセンターには早朝から行列ができるが、どの店もマスクの商品棚は空っぽ。「お年寄りも多い地域。困っている人がたくさんいる」。重機を使う仕事場で「大きな音を立ててご近所に迷惑を掛けている。おわびをしたい」との思いも抱いていた。

 マスクを生産する母国の友人に連絡し、手始めに2万枚を仕入れた。6日はレーさん一家4人に知人を含めた7人が会社前に立ち、1袋4枚入りのマスク1万枚超を配布。「ありがとう」「助かります」といった感謝の言葉や飲み物の差し入れなどを受けながら、夕暮れまで配り続けた。

 大反響を受け、5万枚を追加注文。1枚約40円で総額は300万円近くに上るが、レーさんは「モンダイナイ、モンダイナイ」と笑い、「日本人は苦しいときに支えてくれた。今度は私が支える番」と意気込む。

 ベトナム戦争のさなか、ホーチミンで生を受けた。戦火をくぐってインドネシアに避難し、30年前に難民として単身来日。大和市の工場で汗を流した。

 同僚や地域の人たちが「親身になって教えてくれた」日本語を生かし、13年前に会社を設立。軌道に乗ると生活にも余裕が生まれ、東日本大震災直後には日本赤十字社に約200万円を贈った。「お金はいいことに使えば、巡り巡って自分に幸せが返ってくる」と寄付を惜しまない。

 マスクを受け取った近隣住民からは、賛辞の声が上がる。三橋茂雄さん(71)は「自分の身を守ることも大変なはずなのに。なかなかできないこと」。増田光枝さん(63)も「近所のお店に見当たらず、政府のマスクも届いていない。困っていたので助かった」。感謝の言葉は尽きない。

 次回の配布は10日を予定し、レーさんは再び思いを込める。「苦しいときこそお互いさま。国籍の違いは関係ない。みんなで助け合って困難を乗り越えたい」

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