「自分の車で運べ」瀕死の女性の搬送拒否 米国の悲惨な救急事情

By 太田清

ギャラウェイさんの事件を伝える米国の黒人の母親人権保護団体「ブラック・ママズ・マター・アライアンス」のインスタグラム

 米南部フロリダ州タンパで帝王切開による出産をしたばかりの黒人女性が急病となり、母親が救急搬送を要請したにもかかわらず、かけつけた救急隊員らが搬送費用の支払い能力があるかどうかを危ぐして拒否。母親に自分の車で病院まで運ばせた事件があり、米社会で批判が集まっている。女性は病院で昏睡状態となり5日後に死亡、「人種的偏見に基づく差別」との指摘を受け当局は救急隊員らの処分を検討している。米主要メディアが1日までに伝えた。 

 女性はクリストル・ギャラウェイさん(30)で7月4日早朝、自宅浴室で倒れているのを母親が見つけ、母親が電話で救急車を呼んだ。ふくれた唇からよだれを流している状態だった。まもなく4人の救急隊員らが到着、ギャラウェイさんをアパートの3階から1階に下ろしたものの、母親に対し「本当に病院に連れて行きたいの?」と何度も尋ねた。母親は「もちろんです。お願いします」と娘の搬送を要請したにもかかわらず、隊員らはギャラウェイさんを母親の車に乗せ、自分で運転して病院に運ぶよう指示したという。 

 この間、隊員らはギャラウェイさんの脈をとったり体温を測ったりすることも一際せず「すぐ近くの病院に運ぶのに本当に600ドル(約6万6000円)払いたいの」などと主張。ギャラウェイさんが地面でうずくまっている間、やりとりは約12分間も続き結局、母親は救急車での搬送を諦め、生まれたばかりの孫らを残したまま、娘を自分の車で運んだ。 

 地元当局者は7月30日、会見を開き事実を認めた上で「4人の救急隊員の行為にはあぜんとした。責任をとるつもりです」と謝罪。当局者によると、4人は当初、救急搬送要請があったものの患者はいなかったと虚偽の報告をしていたという。4人は処分が決まるまで休職処分となっている。 

 何らかの医療保険に加入していない米国の貧困層は、救急搬送に数百ドルから場合によっては数千ドルの支払いを請求されることがあり社会問題化している。英BBC放送(電子版)は高額の支払いを恐れて救急搬送を拒否する重傷者を目撃したマサチューセッツ州のジャーナリストの話を紹介。駅のホームから転落し、列車とホームの間に足をはさまれ「足がねじ曲がり、出血し泣いている」にもかかわらず、被害者女性は助けに来た乗客らに「3000ドル(約33万円)もかかるの。私は払えない」と救急車を呼ばないよう頼んでいたという。 (共同通信=太田清)

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