肺MAC症の治療 生涯付き合う心構えを

 中高年の女性に急増している「肺MAC[マック]症」は、せきや痰[たん]が続くものの、他人に感染させる恐れはなく、ゆっくりした経過をたどる感染症です。ただ、完治は難しく、長く付き合う必要があるといわれています。国立病院機構熊本南病院(宇城市松橋町)の山中徹・呼吸器科部長に治療の考え方を聞きました。(高本文明)

-肺MAC症は、基本的にどのような治療をしますか。

 「抗生物質のクラリスロマイシン、エタンブトール、リファンピシンの抗菌薬3種を併用するのが基本です。いずれも錠剤の飲み薬です。クラリスロマイシンだけでも効果があるのですが、数週間で原因の菌が耐性化してしまい、かえって治りにくくなるため単独では使いません。ほかの2剤との併用で耐性化を抑制できますので、3剤を併用するのが現在の標準治療となっています」

 -中等度や重症の場合は。

 「基本3剤のほかに、必要に応じて抗菌薬のストレプトマイシン、またはカナマイシンを筋肉注射します。レボフロキサシンなどニューキノロン系の飲み薬を併用する場合もあります。保険適用外ですが、注射薬よりも使いやすく、時々やむを得ず併用します」

 -薬で菌を退治できますか。

 「最初の治療によって、抗酸菌が痰から検出されなくなる『排菌停止』まで回復できる患者さんが全体の約6~7割、その半数が治療終了後もそのまま維持できます。しかし、服用をやめると、半数の患者さんは再発してしまいます。もともと患者さんには感染しやすい素因があり、抗酸菌は環境の中に広く分布しているわけですから、菌を吸い込んで、容易に再感染、再発が起こり得ます。薬を飲んでいなければ、再発してもおかしくないのです」

 -では、どれぐらいの期間、薬を続けなくてはいけませんか。

 「患者さん本人と十分相談する必要があります。かつては3つの薬を1年半から2年ほど服用するのが基本でした。現在ではもう少し長くという意見が強くなってきています。排菌が続く患者さんやいったん投薬を終えて再発した患者さんは、基本的に薬をできるだけ継続します。再発していなくても服薬を希望する方は副作用が問題にならない限り続けています」

 -薬の副作用は。

 「エタンブトールは長く服用すると視力の低下が、リファンピシンは食欲不振が起こる場合があります。ストレプトマイシン、カナマイシンの筋肉注射では腎機能低下や難聴になる場合があります」

 -手術が必要になるほど、悪化する場合もありますか。

 「抗酸菌自体は毒素を出さないため、症状は比較的穏やかです。しかし、菌がすみついている肺の病巣では、症状が進行すると周囲の組織を壊し空洞化して、さらに周囲に病変を広げます。最終的には呼吸困難になり、酸素吸入療法が必要になります。病巣が狭い範囲に限られ、高齢ではなく手術に耐えられる体力がある場合などは手術を勧めることがあります」

 -手術はどのようにしますか。

 「胸腔[きょうくう]鏡で肺葉を切除します。症例も専門医も少ないため、肺がん手術よりも難しいといわれます。手術に対応できる医療機関は全国的にもごく限られています」

 -日常生活の注意点は。

 「水仕事や土いじりを避けるともいわれますが、日常的に何かを避ける必要はありません。せきは我慢せず、痰はなるべく出して菌を排出するようにしてください」 「肺MAC症は、それなりに日常生活を送れて、仕事もできる病気です。高齢の方は手術や副作用のある薬を控えて、経過を見守る方が良い場合もあります。状態の安定化を目指して、長い目で診ていく病気なのです。生涯この病気と付き合う心構えが大切です」

(2018年8月1日付 熊本日日新聞夕刊掲載)

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