宮崎から世界広げたい 気軽に外国人と出会う  マッチングアプリのリアル(3)

宮崎市内の観光地、青島ビーチ

 仕事はやりがいがあり、プライベートは充実している方だ。でも、何か物足りない。大学時代の4年間以外を宮崎県で暮らしてきた30代前半の公務員渡辺(わたなべ)あおいは、5年ほど前、そんな思いが頭をかすめるようになった。

 海外を飛び回るようなすごい人。外国人。都会だと出会える気がするけど、宮崎では限られる。仕事柄、県外に転勤することはほどんどないだろう。欲しいのは、自分の世界を広げてくれる刺激的な出会いなのかも…。

英会話の勉強ができれば

 「最近海外の人と会う機会がなくて、英語が話せなくなっちゃった」。宮崎で外国語指導助手(ALT)を務めた米国人の女性で、帰国していた1歳年上のジェイミーに、インターネット電話「スカイプ」でぼやいた。

 ジェイミーは8年前、宮崎市内のパーティーで出会い、英語や海外への関心を持たせてくれた親友。彼女が勧めたのは、マッチングアプリのティンダー(Tinder)だった。

 ティンダーは海外発のアプリで、無料で登録することができ、他のマッチングアプリよりも気軽に始められるのが特徴だ。年齢や居場所からの距離など相手の条件を絞り込み、画面表示された写真を指で触れ右に動かすことで好意を示し、向こうも同様なら、メッセージのやりとりができる。

 米国人、オーストリア人、タンザニア人…。「お茶でもして、英会話の勉強ができれば」。気軽な考えで、宮崎に住んだり観光に訪れたりした外国人の男女10人近くと知り合った。

回るすしを案内したことも

 一番印象に残ったのは、2016年秋に会った30代のオーストリア人の男性マークだ。「宮崎は、どんな食事がお薦め?」。バックパッカーとして日本各地を旅行中で、宮崎市に滞在していた彼からのメッセージをきっかけに、市内の観光地、青島ビーチのオープンカフェで会うことになった。

 腕にライオン柄のタトゥー。一瞬、恐怖心が芽生えた。オーストリアなまりの英語も聞きづらかったが、スキーインストラクターをしているという彼と仕事の話をしているうちに打ち解けた。「すしが食べたいんだけど高くて…」。翌日、繁華街から少し離れた回転ずしのチェーン店を案内することにした。

 「回るすし」に満足げな表情を見せたマークと、市内の公園を少しだけ散歩して別れた。その後、フェイスブックで誕生日メッセージが送られてくることもあったが、返信はしていない。「オーストリアに行ったら、観光案内くらいはしてくれるかも」。マークには、その程度の思いしかない。

妹はアプリで結婚

 恋人が欲しくなったときにアプリを利用したいと思ったこともあった。試したのは、ティンダーではなく、結婚相手や真剣な交際を求める男女が使うアプリ。年収や学歴などの条件で、好みの異性を検索することができた。何人かとメッセージをやりとりし、熱心にアタックしてきた4歳年下の会社員と付き合うことになった。

 高級レストランを予約してくれたり、付き合い始めた日を記念日として毎月花を持って来てくれたりした。「お姫さまみたいに扱ってくれる」と思ったが、会話がかみ合わなかった。「経験したことが違いすぎる」。付き合って約3カ月後に別れを切り出した。

 一方で2歳年下の妹はるかは18年、同じアプリで知り合った年下の男性と結婚した。宮崎市内の居酒屋で、初めてデートをしたときから会話が弾んだ。「会った瞬間に、いいなと思った」。数週間後には一緒に住み始め、まもなく結婚した。「お互いにぼーっとしてるところが似てて、一緒にいて楽なのがいい」。家族もアプリで出会ったことは知っている。そんな妹を見ていると、交際の手段としてのアプリを否定する気にはなれない。

現地集合、現地解散

 もちろん、危険性は認識しているつもりだ。ティンダーで出会った同年代のタンザニア人の男性からは「かわいいね」と口説かれ、「このアプリはデートするためのものだよ」とも言われた。自分のことばかり一方的に話してくるのにも嫌気がさし、その後「おはよう、プリンセス」といったメッセージが送られてきたが、返信していない。

 18年2月には、20代後半の女性がティンダーで知り合った米国人の男性と行動を共にした後、遺体で見つかる事件もあった。「危ないなと思うことはある。いきなり『やろうぜ』とかいうメッセージが送られてくることもあるし、性的な関係だけが目的の人もいるから」

 ジェイミーから受けた忠告は、できるだけ人がたくさんいる場所で会うこと。「現地集合、現地解散」を守り通している。最近になって、アプリとは関係なく日本人の彼氏ができたが、その後もティンダーで知り合ったアフガニスタン人やフィリピン人の男性と会って食事をした。やっぱり、違う国の人の話を聞くのは楽しい。

 「彼もアプリをやっていることは知っているけど、『やめろ』って言われたらやめるかな」。アプリとは肩肘を張らず、程よい距離感で付き合っていきたい。(文中仮名、敬称略、共同=米田亮太31歳)

取材を終えて

 「誰か知り合いにマッチングアプリをしている人はいない?」。デスクから取材依頼を受け、頭の中で記憶をたどってみる。誰も思いつかない。仕方がない、実際に自分で登録して探してみよう。無料で簡単に始められるティンダーでメッセージを送り、唯一取材に応じてくれたのが渡辺あおいさんだった。

 大学院で修士号を得て、専門職として働く彼女は、落ち着いた雰囲気の聡明(そうめい)な女性。話を聞く中で「普通に生活していたら会えないような、面白い人に出会いたい」という言葉が印象に残った。今回、自分でもアプリを少し体験してみた。日々の仕事や生活と離れたところで、誰かと知り合うことは楽しい。そういう感覚は、なんとなく分かる気がした。ただ、あおいさんも「長く続く友人関係になった人はいない」と話すように、気軽に会えたとしても、その出会いをどれだけ意味のあるものにしていけるかは、やっぱり当事者次第の面がある。結局は、顔と顔を突き合わせた後こそが大切。そう再認識させられた取材だった。

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