諫干訴訟 確定判決の“無効化” 共同漁業権消滅で開門請求権も失う

 国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門の開門を命じた2010年の確定判決を巡り、国が開門を強制しないよう漁業者に求めた請求異議訴訟控訴審で、福岡高裁は7月30日、国側の請求を認め、開門命令を事実上無効とする判断をしました。高裁が判断の決め手にしたのは「共同漁業権」です。国と開門派の考え方と合わせて、今回の判決を整理しました。

 -共同漁業権とは?
 漁協の組合員が一定水域を共同で利用する権利です。漁業法に基づき、都道府県知事が各漁協に免許を交付します。免許の存続期間の10年を過ぎると漁協が新たに申請して免許を取得するのが一般的です。県内の免許数は208件(1日現在)。諫早湾内では小長井、国見、瑞穂の各漁協が免許を持っています。
 -今回の判決との関係は?
 漁業被害と堤防閉め切りとの因果関係を認めた福岡高裁の開門命令について、国は当時の菅直人首相の“政治判断”で上告を見送り、10年12月に判決が確定しました。その後、政権が交代。確定判決の強制力をなくしたい国は、確定判決後の「事情の変化」を理由に、請求異議訴訟を起こしました。この際、国が「事情の変化」の一つとして着目したのが共同漁業権で、「漁業者の開門請求権は、13年8月末に各漁協の共同漁業権の存続期間が経過したことで消滅した」と主張したのです。簡単に言うと「確定判決を持つ漁業者は、既に開門を求める権利がない」ということです。判決は国の主張を全面的に認めた形です。
 -でも漁業者は、共同漁業権を更新したんだよね。
 今回、高裁は「新たな漁業権はあくまで別の新しい権利」と判断しました。確定判決を持つ漁業者であっても、新しい漁業権の下では開門請求権はない、との考えです。県によると、共同漁業権は「更新」や「延長」ではなく「切り替え」。法律上は、10年過ぎると別物と見なすそうです。
 -開門派の理解は得られそうなの?
 弁護団は共同漁業権について「継続が前提。再取得した権利は確定判決の時の権利と同じ」と真っ向から反論してきました。それだけに、今回の判決は形式的で漁業者の実態にそぐわないとして「非常識な判断」と猛反発しています。高裁は漁業権消滅論だけを採用し、諫干事業問題の核心として漁業者が訴え続けてきた漁業被害については判断しませんでした。
 -今回の判決で「非開門」方針が強まったの?
 開門の是非を巡って、異なる司法判断が並立していた状態は解消された形ですが、解決の糸口は見えないままです。開門派は「この判決は“長生き”しない」と最高裁に上告する方針で、「勝つまで戦う」と徹底抗戦の構えです。「宝の海」を巡る法廷闘争の終結はまだ見通せません。

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