電停の名が変わり

 軽やかに、歯切れよく。「平和公園です。お降りのお客さま、いらっしゃいませんか?」。運転士さんの声が車内に響いた。「平和公園」という聞き慣れた言葉に、不思議と新鮮味を覚える▲35年ぶりらしい。長崎市内を走る路面電車の電停のうち13カ所の名称が変更された。「松山町」は「平和公園」に。「築町」は「新地中華街」に。「賑橋」は「めがね橋」に。電停の真新しい表示板が目に鮮やかに映る。最寄りの名所を電停名に取り入れたという▲なるほど、これだと観光客に分かりやすい。得心して、こうも思う。「浜口町」も「築町」も、聞き慣れた電停名を車内アナウンスで聞くことはもうないんだな、と▲終点の電停の「正覚寺下」も名が変わり、行き先を新たに「崇福寺」と表示する電車が走る。そこにも新鮮味を覚えつつ、見慣れない「崇福寺」行きを何本かやり過ごし、すでにない「正覚寺下」行きを待つお年寄りがいないかと、心配も頭をよぎる▲〈長崎の夏はチンチン電車で来〉。小欄のお隣、「きょうの一句」に昨夏載った佐野憲嗣(けんし)さんの作。路面電車が夏を乗せ、暑そうに走り来る。さて、この夏は▲新しい電停の名の新鮮さか、親しんできた名の消えゆく一抹の寂しさか。暑さばかりでない、電車が街を走る風景は何を感じさせることだろう。 (徹)

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