1960万円のトヨタ 新型センチュリーの後席に試乗|21年ぶりの全面改良で700万円値上げの価値はあるのか?

トヨタ 新型センチュリー

フルモデルチェンジで700万円の値上げは”稀”

2018年6月22日に発売されたトヨタ新型センチュリーの価格を知って驚いた。1960万円に達したからだ。先代型は1253万8286円だったから、700万円以上も値上げした。比率にすれば先代型の1.6倍だ。1回のフルモデルチェンジで、これほど値上げするケースは珍しい。

先代センチュリーのエンジンは、今の国産乗用車では唯一のV型12気筒5リッターだった。電子制御機能や燃料ポンプなどの補機類を左右で独立させ、直列6気筒エンジンを2つ合体させたような構造にしている。片側が故障したり、極端にいえばテロで被弾したような時でも走り続けられる配慮だ。組み立ては熟練した専門スタッフが行っていた。

そのために発売当初、開発者から「センチュリーが搭載するV型12気筒エンジンの価格は、マークII(マークXの前身)1台分に相当する」といわれた。漠然とした表現だが250万円前後だろう。このV型12気筒は、結局のところ約1万台しか生産されず、メーカーが負担する開発コストも相当な金額になっている。

新型センチュリーのプラットフォームはレクサス LS(先代)のお下がり

トヨタ 新型センチュリー全景
トヨタ 新型センチュリー

一方、新型センチュリーはV型8気筒5リッターのハイブリッドを搭載するが、プラットフォームなども含めて先代レクサス LS600hLと共通だ。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は3090mmで、この数値も先代LS600hLと等しい。

そして先代LS600hLは、動力性能が高いという理由でセンターデフ式フルタイム4WDを搭載したが、新型センチュリーは後輪駆動の2WDだ。

21年ぶりフルモデルチェンジだから、緊急自動ブレーキを作動できる安全装備のトヨタセーフティセンスなどを装着するが、価格を700万円以上も値上げする理由はない。

辛辣にいえば先代LS600hLの「お下がり」で造ったから、ハイブリッドを搭載して安全装備を進化させても、価格は据え置きか、高くても1500万円程度にするのが妥当だろう。

そこで大幅値上げの理由を開発者に尋ねると「最近は開発や生産のコストも高まり、生産台数の違いも大きく影響している。新型は先代型に比べて月販目標が少ない」という。

少なすぎ!?新型センチュリーの月間販売目標はわずか50台

トヨタ 新型センチュリーインテリア

1997年に発売された先代センチュリーの販売目標は、1か月当たり200台だが、新型の販売目標は50台にとどまる。センチュリーは基本的に国内専用車だから、新型は世界生産台数が1か月に50台ということだ。

この生産規模では、価格を上げないと開発費用などを償却できない。だから1960万円なのだが、なぜ月販目標が先代型がデビューした時の200台から50台に減るのか。

その点を開発者に尋ねると「1997年にはレクサスLSがなかったから、台数を(200台と)相応に多く設定できた。しかし今はLSがあるから減らした」という回答だった。

これにも驚いた。日本ではメルセデス・ベンツ Sクラスなども含めて、数多くの高級セダンが売られている。クルマの性格もそれぞれ異なるため、2006年に先代レクサス LSが国内で発売されても、センチュリーの売れ行きが直接下がるわけではないだろう。

コストパフォーマンスの悪さが大幅な価格上昇の原因

トヨタ 新型センチュリーリヤ

それよりも今は、高級車まで含めてセダンの需要が先細りになってきた。運転支援機能の進化などによって、将来的に基本設計の刷新も求められると、新型センチュリーは15年前後で生産を終えるかも知れない。

そうなると1か月平均が50台として、生涯の生産台数は9000台だ。現行プリウスは、2018年1~6月の1か月平均登録台数が1万台を超えるから、新型センチュリーは今日の市販車では生産規模がきわめて小さい。量産効果も得られない。このような複数の理由により、新型センチュリーは700万円以上も値上げされた。

なお先代レクサス LSをベースに選んだ理由は「V型8気筒エンジンが欲しかったから」だという。新型レクサス LS/レクサス LC/新型クラウンは基本的に同じプラットフォームを使うが、V型8気筒には対応していないわけだ。

一般ユーザーはセンチュリーが買えない!?という都市伝説

トヨタ 新型センチュリー

また都市伝説に「センチュリーは一般のユーザーには売らない」というのがある。以前、同様のことをメガウェブ(トヨタのテーマパーク)のスタッフからも聞いたが、開発者に尋ねるとキッパリ否定した。「どなたにも購入していただけます」。販売店に尋ねても同様の返答だった。

そうなると私も原稿の締め切りを守ってお金を貯めて、1960万円+諸費用を支払えば(まぁ無理ですけども)、新型センチュリーのオーナーになれるわけだ。

そんな妄想はさておき、新型センチュリーに試乗する機会を得た。センチュリーはVIPを乗せるショーファーカーなので、後席を優先して開発されている。今回は後席の乗り心地を確かめる。

職人の手作業で彫り込まれる鳳凰のエンブレムなど贅沢な内外装

トヨタ 新型センチュリーフロント
トヨタ 新型センチュリー

試乗の前に新型センチュリーの外観を眺める。フロントグリルは七宝文様で、中央に収まる鳳凰のエンブレムは、職人が手で彫り込んだ金型で造られている。塗装は7層コートで、水研ぎを3回行い、鏡面仕上げになる。車両の周囲が、鏡のようにボディに美しく映り込む。

後席に乗る時も、普通のセダンとは違う。全長が5335mm、ホイールベースは3090mm、全高は現行国産セダンでは最も高い1505mmだから(スバル レガシィB4と日産 フーガは僅差で2位の1500mm)、ドアの開口部が広い。着座位置も高いから、腰の移動量が少なく、セダンにありがちなボディに潜り込む感覚にならない。サイドシル(乗降時に跨ぐ敷居の部分)の段差を抑えて、足の取りまわし性を向上させたこともメリットだ。

センチュリーの後席に収まるのはVIPだから、乗降時の所作も大切だ。ドアを閉める時の音も重々しい。そこまで見据えて開発された。

後席のVIPが窓を開けてコミュニケーションを取りやすいような配慮

トヨタ 新型センチュリーリヤシート
トヨタ 新型センチュリー

後席に座ると、セダンでは着座位置が高めだから、腰が落ち込みにくい自然な姿勢で座れる。座り心地にはボリューム感が伴い、体が少し沈んだところでしっかり支え、体の収まり方もちょうど良い。

後席の電動調節機能は多彩で、前後のスライドやリクライニングが行える。助手席の背面にはオットマンが備わり、後席側に倒れて足を置ける。

天井は後席側で少し持ち上がり「紗綾形崩し柄」で仕上げた。本杢の使い方も含めて、和風の印象がある。かつてのクラウンも和風のイメージで、それを大幅に高級化したのがセンチュリーといえるだろう。

外観が水平基調の堂々とした形状だから、後席からの視界も良い。VIPカーの必須条件として、後席のサイドウインドウは完全に下がり、見送る人達とのコミュニケーションも取りやすい。別れ際の挨拶は「有り難うございました、さようなら」「例の件、よろしく頼むよ」など、人物と立場に応じてさまざまだろうが、あらゆる場面で一切の失礼がなく、完璧な所作を可能にするのが新型センチュリーだ。

普通のクルマでは、車内と外でコミュニケーションを取ることはあまり考えていない。しかしセンチュリーの後席に座る人は、別れ際に、相手に対して好印象を与えることも大切なのだろう。

トヨタが手掛ける国産高級セダンの伝統的な乗車感覚

トヨタ 新型センチュリー
トヨタ 新型センチュリー

走り始めると、センチュリーらしく乗り心地が快適だ。細かな路上のデコボコを伝えにくく、駐車場から車道に出る時の段差も柔軟に受け止める。なおかつその後の挙動の収まりも良い。乗り心地が柔らかい印象を受けるが、車両の揺れが後を引かず不快感を残さない。前後左右の揺れも抑えた。引締まった安定感と、柔らかく感じさせる乗り心地を巧みに両立させている。

これは欧州のプレミアムセダンとは違う、トヨタの手掛ける国産高級セダンの伝統的な乗車感覚だ。先に述べた内装と同じく、かつてのクラウンと同じ方角を向いており、それを昇華させたのが今のセンチュリーといえるだろう。

ならばクラウンも、この感覚を目指すのが良い。新型クラウンは、車両の動きがドライバーの操作に正確で、乗り心地はどっしりしたタイプだが、路面のデコボコは相応に伝える。メルセデス・ベンツ Eクラスなどに似ていて、乗り心地は上質だが柔らかい感じではない。優れたセダンに成長したものの、日本車のクラウンとしての個性が乏しく、本家本元のメルセデス・ベンツを選ぶユーザーも少なくないだろう。

センチュリーとクラウンに共通性を持たせ、レクサスLSやGSとは違う国産高級車の持ち味を復活させて欲しい。かつてのクラウンを筆頭とする日本車は、独特の快適性を備える代わりに走行安定性の欠点を伴ったが、今の技術なら両立が可能だ。

フラッグシップとしてのセンチュリーの価値が改めて重視されている

トヨタ 新型センチュリーリヤ

開発者はレクサス LSがあるから新型センチュリーの月販目標を50台に抑えたとコメントしたが、レクサスは海外でトヨタ車を売るために設けたブランドだ。

トヨタに限らず海外の日本車は、1970年代前半のオイルショックを切っ掛けに「安くて壊れず燃費が良い」ことを特徴として売れ行きを伸ばした。従って高級車を売るには別のブランドが必要だった。

しかし日本では、1955年に発売された初代クラウンが、長年にわたりトヨタのイメージを牽引してきた。1967年には初代センチュリーが発売され、トヨタの高級セダンはセンチュリーとクラウンで完結していた。クラウンマジェスタを廃止した今、クラウンと連携するフラッグシップとしてのセンチュリーの価値が、改めて重視されている。月販目標の50台は、あまりにも少ない。

[TEXT:渡辺陽一郎/PHOTO:小林岳夫]

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