許されぬ減点

 明治初期。夫に性病を移され、子どもを産めない体になって離縁された23歳の女性がいた。入院先で診察台に上がる際、下着を脱いで足を開くよう男性医師から言われた▲治療を受けることが恥ずかしくてたまらない。医師が女性だったらこんな苦痛を味わわずに済んだのに。これは日本初の女性医師、荻野吟子(ぎんこ)が、医師になることを決意したエピソードだ▲医師になりたいと志を立てた人には、一人一人強い思いがあるだろう。それが難関の医学部合格を目指して勉強する原動力になるはず▲東京医科大が入試で女子受験者の得点を一律減点していたことが判明した。その結果合格ラインから落とされた受験者がいたとしたら、あまりにも気の毒▲女性医師は出産や子育てで離職する例が多く、いずれ系列病院で医師不足が起こる恐れがあるため、医師になる入り口の前で女子の数を絞ろうとしたようだ。だが、将来離職するかもしれないというあやふやな可能性で現在の受験者を不利に扱い、その人生を左右することが許されるだろうか。女性医師の離職が多いなら、仕事を継続できない環境の方をまず改善すべきだろう▲荻野吟子は「女に医者は務まらない」という批判と闘い、志を貫いた。医師を目指す受験生の決意を不当に折るようなことは、あってはならない。(泉)

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