内部被ばくは低線量 爆心地付近 急性死者で初試算

 長崎原爆の爆心地近くで被爆し、間もなく死亡した人の臓器における内部被ばく線量は、外部被ばく線量に比べて極めて低かったことが長崎大の研究グループによる調査で分かった。臓器の組織標本に残っている長崎原爆特有の放射性物質プルトニウム239が今も放出しているアルファ線を調査し、初めて試算した。

 低線量内部被ばくの健康への影響は不明な点があるものの、発がん率が明確に上昇する水準ではなかったという。長崎大原爆後障害医療研究所の七條和子助教は「今後の研究の何かの道しるべになれば」と語った。調査結果は論文にまとめ英ウェブ学術誌ヘリヨンに6月29日付で掲載された。
 1973年に米軍病理学研究所(AFIP)から返還された被爆者の生体資料を活用する研究の一環。爆心地から1キロ以内で被爆し、5カ月以内に急性放射線障害で死亡した男女7人の組織標本を使って調べた。
 内部被ばく線量が特に高かったのは爆心地から500メートルの屋外で被爆、68日後に死亡した成人女性の骨髄で0・104ミリグレイ。被爆時に体外から浴びたガンマ線や中性子線による外部被ばく線量(推定83グレイ)の約80万分の1だった。排せつや代謝に伴う生物学的半減期(50年)を考慮に入れ、50年間被ばくが続いた仮定での累積は20・2ミリグレイだった。
 一度に100ミリグレイ以上の外部被ばくで発がんリスクが高まるとされる。内部被ばくの影響は線量だけではなく臓器内の放射性物質の集中度合いなども考慮が必要で、累積10ミリグレイ以上の内部被ばくで発がん率が高まるとの一部研究もあるが、不明な点もある。
 研究グループはこれらの組織標本を使って2009年、肺やぼうこう、肝臓などの細胞核付近でプルトニウムが放出するアルファ線の撮影に初めて成功、その後も研究を続けていた。
 プルトニウムは被爆後、呼吸や傷口などを通して蓄積されたとみられる。物理的半減期は2万4千年。死亡者の組織は生物学的半減期が影響しないため、アルファ線を放出し続けている。

特殊技術を使って撮影した、被爆者の腎臓の細胞核付近から放出されたアルファ線(中央の2本の黒い線)の拡大写真(長崎大提供)
AFIPからの返還資料として長崎大が保管している被爆者の臓器の組織標本=長崎市坂本1丁目、長崎大坂本キャンパス

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