看護師続けながらプロボクサーに 31歳女性 けが乗り越えテスト合格

けがを乗り越え、ボクシングのプロテストに合格した谷山佳菜子さん=26日、東京・後楽園ホール
ボクシングのプロテストでスパーリングする谷山佳菜子さん(右)=26日、東京・後楽園ホール

 空手とキックボクシングで国内外を席巻しながら、選手生命を断たれる大けがに苦しんだ合志市出身の谷山佳菜子さん(31)=東京=が今夏、ボクシングのプロテストに合格した。「格闘技は人生を変えてくれた。まだ終わりにしたくない」と新境地で再起を誓う。

 「人と話したり、自己主張したりするのが苦手で、取りえもなかった」。7月26日、格闘技の“聖地”東京・後楽園ホール。プロテストを終えた谷山さんは汗を拭いながら幼少期を振り返った。

 転機は信愛女学院高1年の時だった。「何のために生きているのか」と自問。「打ち込むものがあれば変われるかも」という思いを抱く中、小学生の頃にテレビで見入った空手家の故アンディ・フグ選手(2000年没、享年35)の雄姿が頭の中によみがえった。

 正道会館に所属したフグ選手は格闘技「K-1」で活躍。ダウンをしても立ち上がる不屈のファイトで人気を集めた。

 谷山さんは同会館支部を熊本で探すと、反対する母親を2カ月かけて説得し、父親には内緒で通い始めた。夢中になって練習を続けると、めきめき上達。看護学校を経て熊本市内の病院に勤め始めた後も打ち込み続けた。

 格闘家として高みを志し、09年に強豪が集う大阪市へ転居した。その年から極真会館世界女子空手道選手権で2連覇し、キックボクシングの国内大会でタイトルを次々獲得。国内屈指のファイターへと駆け上がった。

 非運は突然訪れた。16年秋、練習中に左膝半月板を損傷。1カ月前にノンタイトル戦ながら世界王者を倒し、飛躍が期待されたばかりだった。手術を3度受け、リハビリを続けたが、医師から「復帰は難しい」と宣告された。納得できずに練習で蹴りを試すと膝は腫れ上がった。

 「人生が終わった」。周りからも引退を促され意気消沈する中、奮い立たせてくれたのは、やはり不屈のフグ選手の記憶だった。応援してくれる家族のためにもテレビ中継される年末のリングに上がりたい夢もあった。

 一念発起した。「足技のないボクシングなら続けられそう」。5月に上京し、名門ワタナベジム(東京)に入門。初めてのプロテストは「緊張した」が、鋭い左ジャブでスパーリング相手を追い込んで見事合格した。

 看護師を続けながら今秋のバンタム級デビューを目指し、世界王座にも照準を合わせる。「ボクシングはパンチだけで攻撃する分、動きが細かく奥深い。まだまだ強さを追求できそう」。新たに広がる地平を前に、かつて経験した高揚感がよみがえる。だから、何度でも立ち上がる。(内田裕之)

(2018年8月1日付 熊本日日新聞朝刊掲載)

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