『英国総督 最後の家』 インド独立前夜の激動を、悲恋物語を絡め描く

(C) PATHE PRODUCTIONS LIMITED, RELIANCE BIG ENTERTAINMENT(US) INC., BRITISH BROADCASTING CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND BEND IT FILMS LIMITED, 2016

 地味で味気ない邦題は、恐らくイギリス好き、あるいはイギリス映画好きをターゲットに据えた結果だろう。原題は「Viceroy’s House(総督の家)」。けれども、舞台はインドだ。1947年、イギリスによる植民地支配からインドが解放されるまでの激動の6カ月間を扱っている。

 軸となるのは2つ。1つは、最後のインド総督の任に就いたマウントバッテン卿とその妻が、宗教対立が激化する中、円滑な主権譲渡のために奮闘するというもの。もう1つは、総督の下で働く若いインド人男女の恋の行方だ。前者は、政治絡みのサスペンスを孕みながら、現代の移民・難民問題を照射する。それに対して後者は、宗教的に対立する家系がもたらす悲恋物語という『ロミオとジュリエット』を彷彿とさせる内容なので、日本の観客にもなじみやすいはず。実際、「おおロミオ!」という独白こそないものの窓越しに相手を見るカットなど演出面でも意識されている気がする。その上、2人の仲が接近するたびに障害が立ちふさがる展開は、日本人が大好きなメロドラマのセオリーといっていい。

 監督は、『ベッカムに恋して』のインド系女性監督グリンダ・チャーダ。歴史ドラマとしてもラブストーリーとしても十分見応えはあるのだが、イギリス好き以外の層に劇場にまで足を運んでもらえるようなアピール要素が見当たらないところがネックだろう。★★★☆☆(外山真也)

監督・脚本:グリンダ・チャーダ

出演:ヒュー・ボネヴィル、ジリアン・アンダーソン、マニーシュ・ダヤール、フマー・クレイシー

8月11日(土)から全国順次公開

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