【夏の高校野球】炎天下の甲子園で水分補給させながら聞かせる朝日新聞社長の”5分15秒スピーチ”は必要なのか

炎天下で繰り広げられる夏の高校野球

夏の高校野球が8月5日、阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で開幕した。今大会は第100回目を数え、全国から史上最多の56校の球児らが一堂に会した。同球場には早朝から大勢のファンが訪れ、午前7時40分には大会本部から満員通知が発表された。

だが、2020年の東京五輪と同様に、懸念されるのは大会中の「猛暑」である。気象庁が「異常気象に該当する」との認識を示し、「30年に1度以下の頻度で起こる」ほどの今年の暑さ。はたして、この環境下でプレイを強いられることが、青少年の健全育成といえるのか。

球児たち同様に懸念されるのが、スタンドで応援する観客たちである。すでに前日のリハーサルの時点で、参加していた女子生徒6人が体調不良で運ばれている。

高野連・竹中雅彦事務局長は「選手や観客の安全を考え、出来る対策は全て講じていきたい」と談話を発表しているが、具体的に講じられている案は「試合が長くなった場合、球児が水分補給できる時間を設ける」ことと、「一・三塁アルプス席に霧状の水を噴射する機械を各3台用意する」ことぐらい。真夏を避けた試合時期の変更やナイターの導入など、根本的な対策でないことは明らかである。

これぞ旧時代的な「根性野球の極み」といえるではないだろうか。

■「朝日新聞社長の挨拶いる?」SNSに殺到した開会式スピーチ

開会式のあった午前9時時点で、兵庫県南部の気温はすでに30度4分(NHK)、スタンド観戦者の実測では33度との報告もあった。

環境省の熱中症予防の「日常生活に関する指針」では31℃以上で「危険・すべての生活活動でおこる危険性」「高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する」とある。

そんな中、行われた「開会式」だったが、途中で球児や吹奏楽の生徒に水分補給をさせながら炎天下でスピーチを球児たちが聞き続けさせられるという異常な光景が繰り広げられ、SNSでは疑問の声が上がっていた。

批判が集まったのは、朝日新聞社・社長の長すぎるスピーチである。皇太子徳仁親王が3分45秒、林芳正文科大臣も2分30秒とコンパクトにスピーチをまとめられる中、渡辺雅隆社長(59)の挨拶は「戦争」や「日本国憲法」の話を大会にからめて、5分15秒。

もちろん渡辺氏は高野連(日本高等学校野球連盟)最高顧問でもあるから、挨拶すべき役割なのだが、それは同時に球児やスタンドの健康状態を配慮すべき立場でもある。この社是ともいうべき思想を織り込んだ長い挨拶は必要だったのだろうか。

■「対策万全」という大会本部は気温測定すらしていなかった!

運営サイドの「健康への配慮」に疑問を感じたNEW’S VISION編集部では、大会本部に取材を敢行した。すると呆れるべき、商業主義にかまけた杜撰な管理体制が明らかになった。

編集部「まず、本日の球場内の温度を教えていただけますか」

大会本部「はあ? ”温度”…ですか? そういうのは計っていないんですが」

編集部「具体的にどのような対策を取られているんでしょうか。また本日、体調を悪くされた方は何人くらいいらっしゃったのですか」

本部「救護室を設けています。そこで体調が戻らなければ、近くの医院に搬送されます。今年は見た感じ、10名から20名ほどが搬送されましたかね(調べてもらったが具体的な数字は分からないとの回答だった)。例年と変わりませんよ」

編集部「観客は空席も目立ち始めているのですが、やはり長時間の観戦は厳しいのですか?」

本部「試合の経過に合わせて、お客様は入れ替わられますので。その都度、チケットは再販売しています」

驚いたことに、大会本部はグランド、各スタンド席の時間に応じた「温度測定」すら行っていなかった。これでは対策の取りようがないのではないか。また、ある程度の観客が熱中症で搬送されることを前提と考えている節さえ見受けられ、それでも日に何度もチケットの再販売を続けていることには、商業主義の側面を感じずにはいられなかった。

同球場ではその後も暑さに負けない、球児のひたむきな熱戦が繰り広げられた。だが、常に「熱中症厳重警戒」のテロップが表示される中で放送される様には違和感を覚えた。「教育の一環」という偽善の元に繰り広げられるのは、まぎれもない「高校野球ビジネス」である。球児たちが”真夏の虐待”から解放される日を願ってやまない。

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