熱中症 備え徹底を 長崎医療センター 中道氏に聞く

 記録的暑さが続く今夏。気象庁は「命の危険がある。災害と認識している」としている。総務省消防庁によると4月30日~7月29日に全国で救急搬送された熱中症患者は累計5万7500人超と、過去最悪ペースで増えている。熱中症の原因や特徴を理解し、予防と備えを徹底したい。国立病院機構長崎医療センター(大村市)の中道親昭・高度救命救急センター長に話を聞いた。
■条件重なり発症
 人間の体は普段、熱をつくる作用と逃がす作用がバランスを取っている。熱をつくるのは運動や活動。熱を逃がすのは、汗の蒸発や皮膚に血液を集める仕組みで行う。これが非常にバランスを欠くと熱中症が起こる。例えば、暑い中で汗が出にくかったり、脱水や持病で血の巡りが悪いといった条件が重なると発症しやすくなる。
 熱中症を引き起こす諸条件を構成するのは「体」「行動」「環境」別の各要因=表1参照=。近年の年齢層別の発生状況をみると、10~19歳はスポーツ中、20~59歳は仕事中、60歳以上は日常生活中という傾向が明確に出ている。年代や行動別に各要因を当てはめると、熱中症が起きやすい状況を把握するのに役立つ。
 熱中症の症状は、重症度で3段階に区分される=表2参照=。以前は重症を「熱射病」と呼ぶなどしていたが、これだと一般の人にとって重症度が分かりにくかったため改められた。▽体が熱い▽汗が出ていない▽反応が鈍く意識がおかしい-といった症状は重症の可能性がある危険信号だ。
■応急処置すぐに
 暑い中での体調不良は全て熱中症の疑いがあると考えていい。軽症の段階で手を打たないと重症化するので、早めに気付くことが大切。水分を取った上で経過を見ていいのはI度(軽症)で、改善傾向がある場合だけ。II度(中等症)以上は、ただちに受診する必要がある。
 発症時はすぐに▽クーラーの効いている室内や風通しの良い日陰に避難▽衣服を脱がせ、ぬらしたタオルなどを皮膚に当てるなどして体を冷やす▽水分や塩分の補給-などの応急処置を。水分は、自分で飲めるならどんどん取ってほしい。塩分も補わないといけないので、スポーツドリンクや経口補水液が最適だ。
 予防は、脱水と体温上昇を抑えることが基本。熱中症を引き起こす条件を基に、要因を減らす手を打っておけば予防につながる。我慢せずに冷房を入れるなど、室内でも涼しくなる工夫を。吸汗・速乾性素材の衣服や日傘、帽子の着用は効果的。暑い日には決して無理をしないでほしい。環境省が公表している「暑さ指数」を把握し、行動予定を考えるのも有効だ。
■約半数が高齢者
 特に高齢者の場合は、喉が渇く前に水分補給をしてほしい。起床時や入浴後は水分が不足している。大量に汗をかいたときは、塩分も忘れずに補給したい。
 例年、救急搬送のうち約半数は高齢者で、III度(重症)になる割合も高い。普通に生活していても熱中症になり、なおかつ重症になりやすいということ。長崎医療センターでも集中治療を必要とするのは、この年代の人が多い。周囲が早く気付いて対処することが大事だ。
 最近は高齢者の1人暮らしや高齢者だけの世帯が増えているので、周囲が意識してほしい。今後も高齢者は増え、夏の気温が下がる見込みもないので、熱中症の問題はさらに深刻化する。近年は1シーズン(5~9月)に600~千人が亡くなり、まさに災害。予防や対策意識の徹底はますます重要になってくる。

◎ズーム/暑さ指数

 熱中症の起きやすさを示す国際指標。気温や湿度、日差しの強さから算出する指数により「ほぼ安全」から「危険」までの5段階に分かれる。環境省が全国840地点の1時間ごとの数値や翌々日までの予測値、危険度を色分けした地図などをインターネットで公表している。詳細は同省「熱中症予防情報サイト」(http://www.wbgt.env.go.jp/)。

「予防や対策意識の徹底が重要」と話す中道氏=大村市、長崎医療センター

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