【産業振興、新中期経営計画の狙い】〈谷田雅志社長に聞く〉鉄スクラップ国内循環を優先、電炉向け飛躍的に伸長

 産業振興(社長・谷田雅志氏)では2018年度を初年度とする3カ年の新たな中期経営計画をスタートさせている。同社は鉄スクラップ事業や鋼材加工販売事業、物流事業、肥料事業、製鉄所構内請負事業という〝鉄鋼の製造販売〟と〝鉄リサイクル〟に関連した5つの分野で事業を展開する。特に主力の鉄スクラップ事業を取り巻く環境は、中国による雑品スクラップの輸入規制などを背景に今後も大きな変化が見込まれる。新たな中期経営計画ではどのような事業戦略を描いているのか。前中期経営計画の総括を含め、鉄スクラップ事業を中心に今後の取り組みについて谷田社長に聞いた。(小堀 智矢)

――2017年中期経営計画(15~17年度)の結果は。

 「前中計は2020年までの長期ビジョンから切り出した中間点のため実力に比べ高い目標設定になった。目標は17年度に売上高1千億円、経常利益20億円。これに対し、実績は売上高900億円、経常利益15億円と目標には届かなかった。環境に助けられた面もあり、自己採点は50点だ」

産業振興・谷田社長

――前中計での鉄スクラップ事業は。

 「年120万トンだった扱い量を200万トンに増やす計画とした。当時は高炉の拡大改修が進み、最大の販売先である新日鉄住金が鉄スクラップ市中購入を減らした時期。計画達成に向けて70万トンは輸出で増やす考えだった。つまり、販売の優先順位は高炉→輸出→電炉という姿勢で前中計をスタートした」

 「しかし、国内で様々な顧客と付き合う中、〝国内電炉メーカーに安定供給できる会社であるべき〟との考えに変わった。企業理念(「私たちは鉄鋼の製造販売に関わる事業ならびに鉄リサイクル事業を通じて循環型社会の発展に貢献します」)に鉄リサイクルを掲げながら、貴重な国産資源である鉄スクラップに手を加えず輸出することにも疑問を抱いた。そこで2年目の16年度から鉄スクラップの販売先を国内循環にシフト。販売の優先順位を電炉→高炉→輸出に見直した。17年度の扱い量は180万トン弱だったが、うち電炉向けは85万トンと従来比で飛躍的に伸びた。販売先は新日鉄住金グループ電炉と従来からお付き合いのある電炉である。営業を進める中で当社の本気度を信用していただけた。前中計では電炉と高炉を合わせ年150万トンの販売体制ができた」

トランプエレメント(不純物成分)の管理ノウハウ/スクラップ事業の強味に

――今期スタートの2020中期経営計画(18~20年度)は。

 「目標は20年度に売上高1千億円、経常利益15億円。前中計から伸ばしていない。相当に厳しい環境変化を想定していることが理由だ。収益よりも大きな環境変化に素早く対応できる基盤構築を最優先課題と位置付けている」

――想定される変化と鉄スクラップ事業の取り組みは。

 「雑品の輸入禁止など中国の変化による影響は非常に大きい。鉄スクラップの国内循環を続けることによって、スクラップに含まれる銅などトランプエレメント(鉄以外の不純物成分)の数値が上がっていく。これを放置しておけば、いずれヘビースクラップが製鋼原料に使えなくなる恐れがある。トランプエレメントの管理・制御を考慮したスクラップ事業が重要になるが、こここそが当社の役割だ。当社は製鉄所でトランプエレメントの管理を含む製鋼のオペレーション作業を請負ってきた。スクラップ配合やトランプエレメントの管理には技術や経験の蓄積がある。この知見を武器に勝負していくことが当社らしさだろう」

――トランプエレメントはどう管理する。

 「加工・選別の設備投資が一つの方策だが、やはり発生段階でいかに仕分けできるかがカギになる。集荷後に仕分けするのはコストがかかり現実的ではない。当社の営業と発生元がしっかり関係をつくり、発生元でしっかり管理していく」

――雑品の処理に対する考え方は。

 「これまで当社のスクラップ事業は鉄以外を扱わない方向で進んできた。基本的な方向は同じだが、今後は非鉄スクラップも事業化していく。一方、廃プラスチックなど多様な素材を含む〝雑品〟は当社の事業領域ではない。当社は総合リサイクル業ではなく、明確に鉄と非鉄を対象とした〝金属リサイクル業〟を追求していく」

――ヤード展開については。

 「当社は商社機能ではなく、ヤードディーラーとして機能を発揮すべき会社だと考えている。現状のヤードは12拠点(輸出基地は5カ所)だが、課題は集荷力の弱さ。少しでも自前の玉を増やせるよう、M&Aを含め拡大を図りたい。現在2、3カ所は拠点を増やしたいと議論しており、有力なのは発生量の多い関東だろう」

非鉄も含め〝金属リサイクル業〟を追求

――その他事業の取り組みや投資計画は。

 「今中計は3年間で120億円の投資を行う。前中計の実績(60億円)から倍増となり、各事業で拡大投資戦略を継続する。一方、製鉄所作業請負では老朽化した事務所の建て替えを3カ所(室蘭、名古屋、大分)で予定。投資額は約10億円にのぼる。また、鋼材加工販売事業ではコイルセンター子会社の弥生スチール(京都府)の工場建屋が老朽化しており、10億円超を投じて来年度にかけて工場拡張と建屋とレベラーを更新する。鉄スクラップ事業の投資は約10億円で、加工・選別の設備を段階的に充実させていく」

 「肥料事業に関しては昨年、新日鉄住金の鹿島製鉄所内に開設した新工場の立ち上げが約1年遅れている。物流事業の横浜物流センターも含め、早期に戦力化して収益に貢献するよう期待している」

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