大和ハウス、備蓄や安否確認を手厚く 西日本豪雨では顧客などに備蓄を配布

BCPの説明をおこなった総務部業務推進グループの村田篤史グループ長(左)と同グループの上本高志氏

従業員対応・既顧客対応・被災者支援の3段階

6月18日の大阪北部地震、主に7月6~8日の平成30年7月豪雨は西日本企業に大きな影響を与えた。大阪市に本社を置き、多くの社員と施工物件を被災エリアに抱える大和ハウス工業を取材した。

大和ハウスがBCP(事業継続計画)を策定したのは2004年の新潟県中越地震がきっかけ。地震・台風・水害・テロ・パンデミックの対策をマニュアル化している(サイバーセキュリティは情報システム部で対応)。2009年に従業員対応・既顧客(過去の施主)対応・被災者支援の3つに重点を置いた「事業継続規定」を制定した。従業員対応は主に安否確認、既顧客点検は建物点検、被災者支援は応急仮設住宅の設置が挙げられる。

まず発災直後に行われるのが安否確認。さらに発災から2時間以内に災害対策初動本部を設置し、そこで災害対策本部を設置するかどうかを判断する。地震は震度6強以上が対象。災害対策本部の本部長は会長・社長で副本部長は技術本部長・営業本部長。通常は大阪本社に置かれるが、被災の際の代替本社として、東京都千代田区の東京本社と奈良市にある総合技術研究所も設定。さらに大阪本社に会長、技術本部長、生産購買部長、経営管理本部長が、東京本社に社長と営業本部長がいるというトップの分散体制もとっている。

各事業所以外に千葉と岡山に大規模な備蓄を行っている(出典は全て大和ハウス工業資料)

千葉と岡山に大規模備蓄

同社が特に注力しているのは備蓄。事業所に3日分必要な物資を備蓄。さらには岡山工場とグループ会社である大和物流の千葉倉庫にそれぞれ水(500mL)1万5000本、アルファ化米5000食などを備えている。豪雨では岡山工場から既顧客などに備蓄品を配布。さらに給水車が来た際の水の受け取りに必要とのことで、グループ会社のロイヤルホームセンターで扱うポリタンクなどさらなる必要な物資を大阪本社から送ったという。

大規模備蓄は既顧客などの支援にも使われる

ほかに注力している点としては通信手段の充実と安否確認の訓練、そして電源。年2回、全事業所で緊急地震速報を受けた際の安否確認とIP無線の使用訓練を実施。IP無線を全事業所に設置し、大阪本社と東京本社、工場には衛星電話も設置している。非常用電源は大阪本社では南海トラフ地震による津波を想定し4階に設置。また同社が出資するエリーパワーが生産するリチウムイオン蓄電池「POWER YILLE(パワー イレ)」も事業所や工場に導入している。

発災当初の対応を振り返ると、大阪北部地震は約2500人いる大阪本社を含め約3500人が安否確認の対象となった。安否確認システムにより93%はすぐに無事を確認でき、7%はメールの設定の関係ですぐには確認とならなかったが、当日の早い時間帯で確認できたという。豪雨に関しては、岡山支社で7月7日午前9時ごろ、高知支店でも同日午前11時30分ごろに総務担当者が安否確認を実施。岡山では212人全員が返信。高知では60人のうち2人が返信できなかったが、比較的早く電話で確認がとれた。

災害時の出社については同社では「安全第一。無理な出社は促していない」(総務部業務推進グループ長・村田篤史氏)。大阪北部地震は午前7時58分という出勤時間帯でしかも社員が多い大阪本社そばでの地震。JR西日本など鉄道が不通となり、自宅にいたり電車に乗ったりした後で来られない社員も多く、来られない社員には出社はしなくていい措置をとったという。ただし危機管理担当者や本社機能を担う管理職は出勤の必要性があり、タクシーなどで出社となる場合もある。

豪雨では7月6日の午前8時30分ごろには無理に出社しなくてもいい旨の連絡を行い、同11時頃には出社している社員にも帰宅を促した。鉄道が動かない路線が多かったため。大阪本社、東京本社、名古屋支社といった都市部の拠点以外は自動車通勤が多く行われている。そのため豪雨の際の岡山支社や高知支店のような手動による安否確認システムの利用や細かな確認も重要になってくるという。

横の連携や物流に課題

発災後の対応として安否確認以外にまずは災害対策本部の設置が行われる。大阪北部地震は最大で震度6弱だったため、設置は見送られた。ただし、地震の起こった6月18日はそもそも大阪本社で安全性委員会の開催が予定されていた。これには代理人も含め必要な人員がすべて出席していたため、安否確認の報告をここで行った。

豪雨は7月7~8日にかけて被害が深刻化。9日に大阪本社で技術本部長が中心になり、広島支社などから情報収集といった対応を行った。そのうえで施工中物件は安全を確認したうえで工事を再開。大和ハウスがこれまで手がけた注文住宅や分譲地での建売といった戸建住宅や賃貸住宅、マンション、店舗や建築物件が被災エリアに約9万1100棟あり、既顧客対応として確認を実施するほか、補修など必要な対応にもあたっている。道路が不通となっているエリアも多く確認や作業には時間を要する見通し。さらに今後は被災者支援として、必要があれば行政から業界団体を通じて応急仮設住宅の整備といった、被災者支援が本格化していく。

大阪北部地震と豪雨では概ねBCPは機能していたが、課題として村田氏は「安否確認システムは総務部のみが確認できるようになっており、各部門長に情報がいかなかった」とし、各部門における安否確認の情報共有をあげた。

また大和ハウスは戸建住宅のみでなく賃貸住宅やマンションのほか、店舗や物流施設といった事業用建築、不動産開発、エネルギーやホテル、ホームセンターなどグループ会社も含めて国内外で多角的に事業を展開。約2500人いる大阪本社と東京本社、約1000人の名古屋支社といった大所帯の都市部の事業所では、部門ごとに休日もバラバラ。これらの大都市の事業所は100近い部門があり、全員が出社してそろうことはまれだという。「帰宅時支援などで、自宅が同じ方向の社員同士で助け合うなど、横のつながりを持っておいた方がいいとは感じている。個人情報保護との兼ね合いも考えながら、今後検討したい」と村田氏は述べた。

また千葉と岡山に大規模な備蓄を行っているが、豪雨ではトラックの手配が特に困難となったという。大和物流と協定を結んでいる物流会社の協力を仰いでいるが、金額も高騰。今後はドライバー不足も深刻化が予想されており、常時からさらなる対策が必要になる。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

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