戦争との距離感

 南高南有馬村出身の北村西望(1884~1987年)は、戦前戦後にわたって活躍した日本を代表する彫刻家だ。隆々とした男性的肉体美の表現を得意とした▲戦前は官展に「旭日登天」「神威発動」といった勇ましい題の作品を出展したり、陸軍省の依頼で軍人の銅像を制作したりするなど、戦時体制の中で戦意高揚の一端を担った▲戦後は長崎市の平和祈念像を手掛けたことであまりにも有名。市の依頼を受け、4年かけて高さ9・7メートルの大作を完成させた。今や平和公園を訪れた人が原爆の惨禍や平和の尊さに思いをはせる長崎のシンボルだ▲戦前の軍国主義から戦後の平和主義へという社会の変化に伴って、北村が手掛けた題材は平和や自由などへと大きく変わった。北村は時代の空気を敏感に察知し、社会に求められるものを制作しようとする作家だった-と専門家は評する▲一方、そんな態度変化を批判的に見る美術関係者もいる。求められるまま純粋に制作活動に打ち込むことが、時世によっては戦争協力にもなりうるとしたら、危うさを覚える▲あすは73回目の長崎原爆の日。原爆犠牲者を二度と出さないと誓い、平和の大切さを改めてかみしめる日だ。そのためには、時代の空気に流されることなく、戦争との距離感を常に確かめておく姿勢が必要だ。(泉)

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