【特集】どうなる北朝鮮の非核化 元IAEA主任分析官に聞く

日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センターの堀雅人副センター長=7月、茨城県東海村

 北朝鮮の非核化はどのように進められるのか。2016年まで国際原子力機関(IAEA)で主任保障措置分析官などを務めた核管理の専門家、堀雅人日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター副センター長に話を聞いた。(共同通信=原子力報道室・竹岡勉)

 申告、査察、検証

 ―非核化はどのように進められるか。

 「まずは北朝鮮が核兵器開発プログラムの全容を申告することが必要だ。申告の対象は保有する核物質の量や、核物質と核兵器の製造に利用した施設だ。その上でIAEAといった専門機関による査察と検証が必要になる。申告されたものが実際に現場になければ、追加情報を求めながら一つ一つ検証していく」

 ―検証の手法は。

 「査察官は現地で核物質そのもののほか、ちりなどのサンプルを取る。ウランやプルトニウムを扱わない施設なのにそうした物質が検出されないか確認し、申告と矛盾がないか確認する。衛星による空撮画像も活用する。施設の煙突から熱が出ていると画像がゆがむ。停止しているはずの施設なのにトラックが頻繁に出入りしていないか。一つ一つチェックする」

 ―核兵器とは。

 「核分裂を起こしやすいウラン、プルトニウムの濃度を人工的に90%以上まで高めたものを使うプルトニウム爆弾や高濃縮ウラン爆弾がある。またこうした爆発を起爆装置として活用し、核融合という反応を利用する水爆もある」

 ―非核化の定義は。

 「明確にはなっていないが、核兵器を解体した上で高濃縮ウランやプルトニウムを廃棄したり国外に移転したりすることだ。ウランやプルトニウムを製造する原子炉や使用済み核燃料の再処理工場を停止したり解体したりすることも含む」

 ―核技術の入手ルートの追及は。

 「核鑑識という技術がある。核物質に含まれる微量の不純物の割合から産出地域を絞り込んだり、核物質を顕微鏡で観察して製造工程を推測したりする。また核兵器そのものに特殊な装置が使われていれば、どの国から製造技術を入手したかヒントになる」

ASEANプラス3の外相会議で写真に納まる各国外相ら=4日、シンガポール(共同)

 平和利用と主張した場合

 ―核物質の処分はどうするか。

 「高濃縮ウランは劣化ウランと混ぜて核分裂しやすいウランの濃度を下げれば、原発の核燃料として利用できる。またプルトニウムは金属のままだと核兵器に転用しやいため、酸化させて粉末状にすることが必要だ。高速炉と呼ばれる特殊な原発の燃料として使用できる」

 ―北朝鮮非核化の課題は。

 「仮に核兵器を処分したり国外移転したりしても、核兵器製造に関わった技術者やノウハウ、資機材の調達ルートは残る。また北朝鮮が発電という平和利用のために原子炉が必要と主張した場合、どこまで核関連施設を放棄させられるか。これから議論になると思う。北朝鮮が一部の核兵器を申告せずに隠した場合、検知が難しいケースも出てくるだろう」

 ―日本はどのように貢献できるか。

 「日本は核実験や核兵器製造の経験はないが、ウラン濃縮施設やいろんなタイプの原子炉がある。そうした施設の廃止に関する検証ならかなり貢献できるだろう」

 【IAEAの査察】 原発など平和利用目的の核物質が核兵器など軍事目的に転用されることを阻止するために行われるIAEAの検証活動。「核の番人」と言われるIAEAと各国の間で保障措置協定を締結して行われる。北朝鮮は1992年に協定を結んだ。申告内容に疑義が生じた場合、IAEAは相手国の同意を得た上で追加的な特別査察を行う。2018年6月の米朝首脳会談で合意した「完全な非核化」を北朝鮮が履行するに際しては、IAEAの査察が不可欠になる。

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