ARTA BMWの強さ支える48歳高木真一の“溢れる探究心”。第5戦で「レースでは初」の試み

 第2戦に続き優勝、昨季の第5戦も含めれば富士で3連勝を飾ったARTA BMW M6 GT3。M6は富士との相性がよく、GT300参戦2年目のショーン・ウォーキンショーは、一発の速さだけでなくロングランでの安定した速さも手に入れた。

 結果的に全車をラップダウンする完勝で通算最多勝利数を20勝に更新した高木真一は、「チームのみんなが一丸となって、いいクルマに仕上げてくれた。タイヤもセットアップも毎戦進化させてくれるから」と勝因を語る。しかし、今回の優勝は高木の貢献度が最も大きかったのではないだろうか。

 富士500マイルでは4回のピットが義務づけられた。ドライバーがふたりのチームなら、3スティントと2スティント担当に分かれる。ウォーキンショーの実力を認めつつも、「スタートからフィニッシュまでの安定感を考えると、まだ高木さんに頼ってしまう割合が多い」と安藤博之エンジニア。そのためスタート、第3スティント、最終スティントを高木が担当した。

 2番グリッドからスタートした高木は、1コーナーでポールシッターのHOPPY 86 MC(25号車)にアウトから並びかける。しかし500マイルという長いレースであるため、あえて無理をせず2番手をキープ。そこから数周、前後の動きを観察した。

「前の25号車はセクター2が速いけど、セクター3は同じかこちらのほうが速い。後ろの10号車(GAINER TANAX triple a GT-R)はペースが良く、抜きたがっている。接触などのリスクを考えるとバトルは極力避けたい」。そう判断した高木は7周目のセクター2でプッシュし、最終コーナーの立ち上がりで25号車のスリップに入れるポジション取りに専念した。

第1スティントを担当した高木はレース序盤にHOPPY 86 MCをオーバーテイク。以降は独走状態に

 そして次の1コーナーで、今度はイン側から25号車を抜き去りトップに立つ。その後は後続を引き離し、およそ18秒のマージンを築いてピットへ。バトンを引き継いだウォーキンショーはさらにギャップを広げ、再び高木と替わるまでに2番手とは33秒以上の差をつけていた。

■高木、第3スティントから左足ブレーキを実戦初投入

 高木はこの第3スティントの途中から、「レースでは初」という左足ブレーキを駆使していた。M6のブレーキは強いペダル踏力が必要で、「ショーンは若いからいいけど」と高木は笑う。第2戦の500kmでは問題なかったが、500マイル=800kmとなると状況が異なる。気温も高く、脱水症状になれば足が痙攣するかもしれない。

レース中、高木は「レースでは初」という左足ブレーキを駆使していた

 最終スティントを残していることもあり、足への負担を分散させるため、前にクルマがいないときなどは左足でブレーキを踏むようにした。「テストとか遊びではやったことがあるけど」という左足ブレーキは徐々に慣れていき、最終スティントは右足ブレーキと比較しても、ほぼ同タイムで走れるようになった。

 レース後に左足ブレーキを使っていたことを知らされた安藤エンジニアは、「驚きました(笑)。後でデータを見比べれば、アクセルとブレーキペダルのオーバーラップによって燃費が悪くなっていたことが分かるかもしれないけど、タイムも変わらないし、レース中は全然気づきませんでした」。  

 高木は昨季の第5戦富士、「ABSの入りを感じながらブレーキングすることで、1コーナーのブレーキングポイントが怖いぐらい奥になった」と明かしていた。今季の第2戦では、コーナーごとに異なる路面ミューに応じてABSの効き具合を調整していた。そして今回は左足ブレーキ。「面白かった」とレースを振り返る48歳は、溢れる探究心でいまなお進化を続けている。

© 株式会社三栄