魔性の女を落とすには、練習あるのみ。模擬デートを繰り返して掴んだ、男の“モテの必勝パターン”とは?

男ならだれでも一度は夢を見る、“モテキ”。

しかし突然訪れた”モテキ”が、人生を狂わせることもある。それが大人になって初めてなら、なおさら。

茂手木 卓(モテキ タク)、29歳独身。趣味は微生物研究。

これまでの人生、「モテることなんて何の価値もない」と思っていた男。

そんな男が、モテ男ジェイと出会い、突然の起業。今までとは違う世界で絶世の美女と出会い、彼の今までの考えを大きく変えることになる。

一度味わってしまった際限のない欲望からは、簡単には逃れられないのであるー。

ミッドタウンの大きな窓に映る僕は、まるで別人だ。

Tシャツにジーパンを合わせるという行為自体は、幼い頃から幾度となく繰り返してきたことなのに、モノの値段が30倍になると、その仕上がりも全く違ってくる。

「タクくんって、身長高いからシンプルな服が似合うね♡」

そう言って僕を見上げ微笑んでくれるのは、ジェイの知り合いである玲奈ちゃんという女の子で、職業はモデルらしい。(彼女が何かに出ているのを見たことはないが。)

オタクだった僕が、こうして女性とデートをしているのにはある理由があった。実はいま、密かな目標があるのだ。

ー名前も分からなかったあの女神にもう一度会うまでに、男をあげてやる。

“女神”とは、この間のパーティで、「西のバフェット」の異名を持つ投資家・岩城と共に現れた絶世の美女だ。

彼女に一目ぼれした僕が決めたのは、まずは女性と上手く話せるよう、反復練習を行うことだ。元々人付き合いが得意な方ではないが、相手が女性ともなると、一言も話せなくなる危険すらある。

「うん、俺もタクはもっと人慣れした方がいいと思ってた。これも帝王学の一種だよね。」

ジェイの後押しもあり、“男性と遊ぶのが上手な女の子”として、パークハイアットの『ニューヨーク バー』で一度会った玲奈ちゃんとデートする運びになったのだ。

「今日の服、涼しそうだね。」
「ふふ♡ありがとう」

玲奈は今日、背中が大きくあいたボルドー色のブラウスを着ていた。何か言わなければと口に出した言葉は少々的外れにも感じたが、意外にも彼女は嬉しそうだ。

「タクくんって、聞き上手だね♡」

オタクの口下手男が、オシャレな聞き上手に変わる。

「人は見かけが9割」と一時期よく聞いた言葉だが、あながち間違いではなさそうだ。

人生初のデートで手応えを掴んだタクが、次に起こした行動とは?

玲奈とのデートから3週間で、僕は5人の女の子とランチに行くことに成功した。

5人全員がジェイから紹介された”遊び上手な女の子”だったこともあるが、自分でも驚くほどスムーズにデートが進み、少しだけだが自信もついた。

彼女達からの評価だと、僕は黙っていると「ミステリアスでかっこよく」見え、たまに口にする言葉は「深イイセリフ」に聞こえるらしい。

…実際は、次に何を話せばいいのかイメージが湧かずひたすら熟考した末、思いついた中で相手を傷つけず、セクハラになる可能性がなさそうな褒め言葉を選んで発しているだけなのだが。

しかし身に余る評価を頂けた理由として、ある程度の肩書を持つ男の行動は特異であればあるほど、人の目には“カリスマ性がある”と映るのかもしれない。

イチロー選手がカレーばかり食べるというのは有名だし、故スティーブ・ジョブズがいつも同じ服を着ていたことも、大枠ではこれに該当するのであろう。

イチローやジョブズには遠く及ばないが、僕の持つCTOという肩書は想像以上に武器になるのではないか。

ー今の僕なら、女神と会話を交わせるかもしれない。

そう思った僕は、西のバフェット・岩城さんへの手土産になる”儲け話”を本格的に考えるフェーズにうつることにした。

「へ?ダイエット?」

僕が突貫で作った新規事業案を見たジェイは、不思議な声を上げた。脂肪酸を分解する微生物を使った、ダイエットプログラムの提案をしたのだ。

それもそのはず。元々は微生物を使った浄水場など、インフラ事業に乗り出す計画だったので、数千円のダイエットプログラムの開発案など、寝耳に水の話だろう。

「もちろん、インフラ事業は今まで通り進めるよ。でも、お父さんと同じことをやってても意味ない。全く新しいアイデアとして、考えてみてほしい。」

実は、ダイエットプログラムのアイデアは、デート修行の中で思いついたものだった。

今まで母親以外の女性と食事に行く経験が少なかったので気づかなかったが、炭水化物を摂取する事に対して恐怖を感じている女性が多いことに驚いたのだ。

「うん。バズったら凄そうだよね。ダイエットって底なし沼だし。でもさ、微生物で痩せる訳?そうだとしたら俺も今すぐやりたいんだけど。」

問題はそこだ。

脂肪酸を分解する微生物は発見されてはいるものの、人体が痩せるかどうかなんてことは全くの未知数。

「・・・まだわからないからこそ、ビジネスチャンスなんだよ。」

僕の言葉はどうやらジェイにも「深イイ言葉」に聞こえたようで、少し考えたあと、彼は大きく頷いたのだった。

いよいよ女神との再会の時。しかし、タクの作戦が裏目に出て・・・?!

さっそく僕らは、岩城さんへ投資の話を持ちかけに大阪に向かったが、久しぶりの新大阪駅に降り立った僕は、異常なくらい興奮していた。

入念に準備した事業案に投資が受けられるのかどうかはもちろん、あの女神にもう一度会えるチャンスがやっと巡ってきたことに、武者震いが止まらないのだ。

そんな僕を見かねてか、「帰りにたこ焼き食べよう」と緊張をほぐしてくれようとしているジェイに内心感謝しながら、タクシーに乗り込んだ。

箕面(みのお)の高級住宅街にある岩城の住まいは、家というより城塞という方がふさわしい。

僕が通っていた小学校と同じくらいの敷地はあるだろうか。やっと玄関の場所がわかった頃には、タクシーを降りてから5分以上経っていた。

久しぶりに会う“西のバフェット”は、ひとしきりジェイと僕に説教をした後、それまでとは打って変わり、真剣に事業説明に耳を傾けているように見えた。

「お前ら、なかなかおもろいやんけ。」

説明を終え汗だくの僕らにお茶を入れるよう家政婦に命じると、彼は続けた。

「いくらエンジェルといえど、こっちもボランティアで投資してる訳やないからの。知り合いにもこの話をしてから判断するから、待っとれ。」

「お知り合いというのは、以前ご一緒にいらっしゃった方などでしょうか。」

思わず口を出てしまった言葉に対し、彼は僕をギロッと睨みつける。

「何やお前。エリカが何やいうねん。」

ーエリカ…。エリカっていうのか。

「あ、あの、お綺麗な方でしたので、ダイエットにもお詳しいかと。ぜひご意見を伺いたいと思ったものですから。」

慌てて口にしたにしては、上手い言い訳だったと我ながら思う。

「まあ、そやな。今度東京で会う時聞いとくわ。ほなな。」

―エリカという女神は、東京にいる。

岩城さんとの面会が終わり、その事実を知った僕は今すぐに新幹線に乗りたい気分だったが、ジェイがどうしてもというので、新大阪駅でたこ焼きを食べてから帰ることにした。

「でもうまく行ってよかったよー。岩城さんなんて会うの数十年ぶりとかだから、ほとんど記憶ないしさ。内心ビビってたからね、俺。」

ジェイが2杯目のビールをオーダーした時、僕のスマホが振動し、同時に画面に表示されたのは、玲奈ちゃんの名前だ。

「いいよー出なよ。」

正直めんどくさかったが、ジェイの紹介の手前出ないわけにもいかず、通話ボタンを押した。

「もしもし・・・」

「タクさん大変!私たち、週刊誌に撮られてる!さっきマネージャーから電話きて、来週発売らしいの。どうしよう〜!」

週刊誌に撮られてる?
来週発売?

スマホの向こう側で、女の子が泣いている。

その理由が僕だとしたら、これが女泣かせというものなのだろうか。混乱する頭の中で、そんなどうでもいいことを考えた。

不思議そうにこちらを見るジェイに、僕は何と説明しようとさらに混乱を極める。

電話が終わり「週刊誌に撮られたらしい」とだけ言うと、ジェイは大きく目を見開いた。

僕が発したその一言には、かなりのインパクトがあったようだった。

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茂手木卓、週刊誌デビューでモテキは早々に終わりを告げるのか・・・?

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