好きだった感情は簡単に消えない。傷心のセカンド女を焚きつけた、大いなる逆襲への道

ー夢は極上の男との結婚。そのためには、どんな努力も惜しまない。

早川香織、26歳。大手IT企業の一般職。

世間は、そんな女を所詮「結婚ゴールの女」と馬鹿にするだろう。

しかし、先入観なんぞに惑わされず、彼女の“秘めたる力”をじっくりと見届けて欲しい。

vsハイスペ男との熾烈な戦いを...!

最高の彼氏だと信じていた拓斗にとって、実は香織はセカンドだった。

パリへの失恋旅で出会った塚田雅也から、香織の持つ凄い可能性を指摘され、“心がときめく物”を探そうと決意する。そんな時、あるサブバッグが目に入り…

―わぁ、もう夜明け…!?

香織は一睡も出来なかった。昨日見かけた素敵なサブバッグから色々と妄想しているうちに、アイデアが溢れて止まらなかったのだ。

こんなことは初めてだった。これまで拓斗のために、料理をあれこれ試行錯誤したり、メイクや髪型のアレンジで夜遅くまで頑張ったことはあったが、ここまで夢中で何かに没頭したことはない。

―心がときめく物を見つけ、とことんやってみなさい。

先日の雅也からの言葉がふと脳裏によぎった。これが彼の言う、“心をときめく物”というモノなのか?

しかしー。

―一体何をどう頑張ればいいの…?こんなのデザインしたって、せいぜい自分用に手作りするのが精一杯だし、販売したとしても、こんなの趣味程度にしかならないよね…。

ふと現実に戻る。

そうなのだ。いくらデザインを頑張ってみたところで、香織は全くの素人なのだ。知識もなければ経験もない。そんな自分がバッグを色々とデザインしてみたところで、何が出来ると言うのだろうか…。

―やっぱり、雅也さんが言ったのは、もっと現実的な資格とか勉強とかだよね…。

香織は一晩かけて描いたアイデアの詰まったノートをそっと閉じ、少し仮眠を取って、残りのパリを満喫することにした。

一度は現実をみようと諦めた香織だったが…

好きだった感情は、簡単には消えない

パリ二日目。香織はエッフェル塔や凱旋門を見に行き、その後ギャラリーラファイエットでお土産になりそうな小物を見て回った。

可愛い物を見るたびに、心のどこかで「このデザイン、バッグに取り入れられないかな?」「こんな柄を入れてみたら可愛いかも」と自然と妄想している自分がいることに気がついた。

―違う違う、もっと現実的なこと…。でも、この他に夢中になれるものなんて、何があるんだろう…?

そう思ってバッグのことを忘れようと、別のことを考えながら歩いていると、メンズ館に来てしまっていた。

―あ、このシャツとか拓斗に似合いそうだな。首も手足も長いから、パリの服でも着こなしそう…。

無意識にそんな考えが浮かんでしまい、一気に自己嫌悪に陥る。

―そうだった…拓斗はもういないんだ…。

あれだけ傷つく言葉を投げかけられても、好きだった感情は、心にシミのようにこびりついて簡単には消えてくれなかった。

―皆よく“一瞬で冷める”って言うけど…。どうして冷めてはくれないんだろう…。

香織はおもむろにスマホを取り出して着信を確認する。しかし、拓斗からは最後に会った日以来、何も連絡がなかった。

―やっぱり、彼女のところに戻ったのかな…?

そう思うと無性にまた中原梓のFacebookを覗き見たくなる衝動に駆られる。そこでハッとした。

―何のためにフランスまで来たんだろう…。これじゃ私、何も変わらない…!

香織は彼女のFacebookを開くのをやめ、代わりにそのエネルギーを違う人へと向けることにした。

「塚田さん、先日はありがとうございました。明日帰国なのですが、もし良ければ明日の夜でも、お食事いかがでしょうか?」

弱気になった自分にまた褐を入れて欲しかったのかもしれないし、ただ何となく、もう一度会って話してみたかったのかもしれない。

1度目に誘った時よりも少し緊張しながら、雅也に食事のお誘いを送った。

雅也から返事が返ってきたのは夜中だったが、「了解、20時以降なら」と短い文章とともに承諾をもらい、香織は心底ホッとした。

パリ最終日。香織はルーブル美術館を見た後、マレ地区に行くことにした。

ルーブル美術館で早足に目的の有名な絵画や彫刻を見た後、マレ地区に移動し、遅めの昼食を取ろうと思ったのだ。

ここはパリのど真ん中と違って、カジュアルな店も多く、何となくホッとした。

3日目にしてやっと少しはこの街に慣れたと思っていたが、海外で知らない場所まで辿り着くのは、香織にとって相当ハードだった。

けれど、カフェで頼んだサクサクのパン・オ・ショコラと、香り豊かなカフェラテが体に染み渡り、妙な高揚感を味わっていた。

―さぁ、もうパリも最後だし。思う存分見て回らなきゃ!

そうして散策に出たマレ地区で、香織は運命の再会を果たすのだった。

香織の運命の再会とは…?

確固たる確信

―わぁ、このお店かわいー!観光客向け、というよりは現地の人にも親しまれそうなお店だな…。

香織がたまたま入った小さな雑貨屋。ガイドブックにも載っていないようなこじんまりしたお店で、もし日本にあったなら、きっと気づかずに通り過ぎていただろう。

中に入ると、お洒落で愛想の良い50歳くらいの女性が、笑顔で迎え入れてくれた。

―里衣にお土産まだ買えてなかったな。いいのあるかな…。

その時、香織の目にあるものが写り、思わず歓喜の声をあげそうになってしまった。

―これ!!先日見たバッグだ…!!

そこにあったのは、一昨日街で見かけた、少し変わった薄地のバッグだった。

デザインは3種類あり、小さく折りたためてショッピングバッグとして使用できるのに、しっかりとしてハリのある生地とそのデザインは、どこか高級感を漂わせている。

香織があまりにまじまじと見つめるので、先ほどの女性が声をかけてきた。

「May I help you?」

観光客と分かったからか、英語で話しかけてくれた。香織は嬉しくなって、拙いながらも英語で返す。

「Thank you. I really love this bag. Are these your original design?」

香織がこのバッグは店のオリジナルデザインか尋ねると、女性は「いいえ」と答える。そしてバッグについたタグを見つけて「あぁ、これはね」と教えてくれた。

どうやら、知り合い経由で仕入れたものらしいが、もともと手作り品で、もう今は新しいものを作っていないそうだ。「これが最後のデザインになるのよ」と残念そうに教えてくれた。

―こんなに素敵なのに、これで最後だなんて…。勿体ない!こんなに良いものなら絶対欲しいと思う人がいるのに…!

なぜかは分からないが、この時の香織はそう確信した。

とりあえず自分とお土産用に3種類全てを購入し、店を出る。すごく安いという訳ではなかったが、ブランド物を買うよりも何よりも嬉しかった。

20時、ホテルのロビーで待っていると、雅也が時間通りにやって来た。見た目は相変わらずの無精髭にカジュアルな装いで、お世辞にもカッコイイ、とは言えなかったが、彼の顔を見てどこかホッとしている自分がいた。

レストランは、雅也が予約してくれた『Café Constant』でカジュアルフレンチを楽しむ。

「どう?パリは満喫できたかい?何だかこの数日ですっかり表情が変わったね」

雅也にそう言われ、香織は到着した頃より明らかに、自分の中で何かが変わり始めていることを実感した。

「はい、すごく良い旅になりました。来たばかりの時は、勢いで来てしまったのもあり、すぐにでも帰りたかったんです。でも雅也さんと出会って、パリ観光を一人でしてみて、意外と自分だけでも色々できるんだなってことに気がつきました」

そんな香織の言葉に、雅也は満足そうに優しく微笑んだ。

「そうか、それは良かった。もしかして、もう何かやりたい事を見つけたのかい?」

「やりたい事と言うか…夢中になれるものには出会いました」

そうして、香織は先ほど購入したバッグの一つを見せて、雅也にこれの何が素晴らしいか、そしてこのバッグの可能性や、自分ならもっとこういうデザインにしたい、などの思いを語った。

「ということはつまり、香織ちゃんはこれを使って起業をしたいっていうこと?」

雅也からの思いがけない発言に香織は…?

大それた選択肢

―起業!?

彼から発せられた言葉に思わず驚いて言葉が出なかった。起業なんて、自分には全く関係のない遠い世界の話だと思っていたからだ。

「起業…そこまで何も考えていなくて…。ただ、今の私みたいに“自分だったらこんなデザインにしたい”って思う女の子って、結構いると思うんです。皆インスタでもコーディネートとかアップしてるでしょう?それと同じで…。

服や靴にはオーダーメイドってあるのに、カバンはあまり聞かないなって。誰でも気軽に、スマホとかで自分だけのデザインを楽しめる。そして簡単に、オリジナルバッグを作れたら面白いなって…」

そう言いながら、香織は自分の発言に自信がなくなってきた。

素人の、いい歳をした自分がこんなことを言っても、笑われるだけなんじゃないかと思ったからだ。

だが雅也は、香織が一晩かけて描いたデザインのノートを見ながら、へぇっと驚いた様子を見せ、こう答えた。

「デザインのことは良く分らないけど、上手だね。一晩でここまで描けるって、結構すごいことだよ。それだけ心が動かされたってことだろうね」

バカにされるのでは、と思っていたので、意外にも褒めてもらえて少しだけホッとする。そして雅也はさらに続けた。

「いいんじゃない、起業するのも。アイデアとして、悪くないと思うよ?ただし、相当な覚悟を持ってやらなければ、とてもじゃないけど成功は難しいけどね」

彼の今までとは違った鋭い目に、一瞬ドキッとする。起業なんて、何も分らない自分が本当にできるのだろうか?

でも…それでも…。

心の奥で「やってみたい!」と強く願っている自分に香織自身驚いた。それに、雅也の挑戦的な態度に、少し反抗したくなったというのもある。

「すごく大変なことなのは、覚悟します。今はまだ、雅也さんの言う半分も、その大変さは理解できていないとは思いますが…。

でも、雅也さんが言ったんですよ?『自分には何もない』と言った私は、何にでもチャレンジできるって!ここで怖がって逃げていたら、女が廃ります!!」

香織のものすごい剣幕に、雅也は一瞬目を丸くして、「ははっ」と笑った。そして、また悪戯っ子のように口をニッと横に開き、思わせぶりにこう言い放った。

「よし。そこまで言うなら、僕がこの間言った、君に起こっている最高にラッキーなことを教えてあげるよ」

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雅也の言う、最高にラッキーなこととは?とうとう香織が動き始める…!

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