原爆投下から70年超 「核なき世界」日本の物語から世界の共通認識へ

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神戸市東灘区、兵庫県ユニセフ協会(撮影・吉田敦史)

 広島と長崎への原爆投下から70年超の歳月を経て、2017年、ようやく核兵器を法的に禁止する条約が国連で採択された。世界の500近い団体でつくる非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」が採択の原動力となり、ノーベル平和賞を受賞した。朝鮮半島を含め、世界は「非核の新時代」へと向かうのか。ICANの国際運営委員10人のうち、唯一の日本人である川崎哲(あきら)さんに聞いた。(段 貴則)

 -核兵器禁止条約の採択まで道のりは遠かった。

 「長年、日本の被爆者は核兵器の非人道性を語ってきたが、世界の共通認識にはならず、日本の物語として受け止められてきた。『禁止できっこない』『理想論』とも言われてきた禁止条約の採択が実現したのは、現在や将来を真剣に考える世界の人たちが危機感を抱き、自身の言葉で『広島と長崎を繰り返してはならない』と語ってくれたからだ」

 -朝鮮半島を巡る非核化の動きはどう見ていますか。

 「南北、米朝の両首脳会談で一応、朝鮮半島の平和的非核化という総論を打ち出した。韓国、北朝鮮、米国の3者がそれぞれ合意できたのは、歴史的なことで重要。ただ現段階では、まだ具体論に入り切れていない。どれだけ話を詰めていけるか、これからの課題だ」

 「米朝会談で抜け落ちていた点もある。双方とも核兵器が悪だとは言っていない。私たちは核兵器が悪だから非核化の条約に入るべきと主張してきたが、北朝鮮が悪だから非核化すべきという議論へとズレていないか。広島、長崎から学んだことは、原爆はあってはならないということ。北朝鮮も、米国も保有は許されないという話だ。核兵器は悪という認識のない、いかなる非核化合意も平和合意も、合意することに意味はあるとしても、危なっかしいと感じる」

 -日本は被爆国でありながら条約の枠組みの外にいます。

 「ほとんどの国民は核兵器は非人道的だと思っているが、やっぱり核の傘は必要という意見も、そこそこある。核の傘に守られているとはどういうことなのか、しっかり考えてほしい。安全保障上、核の後ろ盾がないと心配だと言うなら、同じ論理で核開発を進める北朝鮮に対して、やめろと言えるのか。核兵器を後ろ盾にすることは、決して安心につながることではなく、危ない、悪いことだという発想の転換が迫られている」

 「もうひとつ言えば、核の傘では米国が核兵器を使って日本を守る可能性があり、それは日本が米国の核兵器使用を認めることを意味する。ここが問題の本質だと考える。禁止条約に照らせば、第1条の『(核兵器の使用などを)援助、奨励、勧誘をしてはならない』に抵触する可能性が極めて高い。本質に焦点を当て、法的に許されるのか、倫理上許されるのか、率直な議論をしてもらいたい」

 -神戸で今夏から、核なき世界を考える市民講座を始めました。

 「地元団体から講座を立ち上げたいという熱望があり、引き受けた。核兵器や平和を考える若者を増やそうという強い思いを感じたためだ。初回は満員で、しかも半数が中学生や高校生、若者だったことはうれしい驚きだった。広島や長崎以外の都市で、核問題に取り組むことの意義は大きい」

 -講座で、川崎さんが「大人の責任で必ず核を廃絶する」と若者に語っていたのが印象的でした。

 「日本は現状維持型社会で、社会が変わりうるというビジョンをなかなか大人が子どもに示せない。講座を通じて、しょうがないと思われていたことがガラリと変わる、みんなでやればできる、と伝えたい。『核の傘は必要』という考えも、いずれ変わる。その契機が今回の条約だ」

 「核廃絶後は戦争のない世界かもしれないし、核に代わる新型兵器の時代かもしれない。核兵器は駄目だが、自らの手を汚さないロボットなどスマート兵器は許される、と若い世代が思う可能性もある。どんな核なき世界を描くのか、若い人の出番だ」

【核兵器禁止条約】2017年に国連条約制定交渉会議で採択。核兵器の保有などに加え、核使用の「威嚇」も禁じた。120カ国超が賛成したが、核保有国と「核の傘」に入る日本などは交渉をボイコットした。

▽かわさき・あきら 1968年東京生まれ。東京大卒。2003年からNGOピースボート共同代表。核兵器廃絶国際キャンペーン国際運営委員。著書に「核兵器はなくせる」(岩波ジュニア新書)など。