【聴診記】小さな命に厳しい現実 矛盾を抱える海外移植 20年で治療費3倍以上に

うれしい知らせが届いた。いや、うれしいと言ってはいけない。それは同時に失われた命があることを示している。そして、医療先進国といわれる日本の医療のゆがみを象徴する出来事でもある。

昨年11月、医療面の連載「命をつなぐ~臓器移植法20年」に登場した佐々木あやめちゃん(3)=川崎市。先天性の心臓疾患のため埼玉県の病院に1歳半で入院。助かる方法は心臓移植しかない。体より大きな補助人工心臓と駆動装置を装着して命をつなぎながら、移植待機の登録をした。だが、1年たってもドナー(提供者)は現れず、今年1月に渡米し、コロンビア大病院で移植を待っていた。

付き添っている母親の沙織さん(30)からのメールで、7月15日にドナーが見つかり、12時間がかりの手術で移植が成功したと知った。ドナーの情報は明かされなかったが、心臓は大きさが近いことが条件のため、同じ年頃の子どもであることは間違いない。沙織さんは、あやめちゃんが集中治療室で生死の境をさまよった時、父親の幸輔さん(30)と泣き明かしたことを思い出し、「そんな状況で臓器提供の決断をされたと思うと、感謝しかありません」とつづっていた。

あやめちゃんは順調に回復。7月23日に一般病棟に移り、今月1日に無事退院した。以前はほとんどベッドを離れられなかったが、入院中からベビーカーで動き回り、「あっち」「こっちも」とおねだりしたそうだ。4歳上のお姉ちゃんと家族4人で暮らす日も夢ではなくなってきた。

ただ、こうした海外での移植は矛盾を抱えている。

国際移植学会は2008年、富裕層による臓器売買や移植ツーリズムを防ぐため「臓器は自国内で確保すべきだ」と宣言。各国が脳死下での臓器提供体制を整える一方、日本は停滞気味だ。特有の死生観や病院の提供体制整備の遅れなどにより、移植待機者約1万4千人に対し、昨年の提供は77件にとどまる。人口100万人当たりでは欧米や韓国の数十分の1。特に6歳未満はこれまでに8件(公表分のみ)で、多くの子どもが移植を待ちながら亡くなっている。

「ただ死を待つよりは」と一部の患者が募金で海外へ活路を見いだしたが、近年は宣言の影響で、欧州やオーストラリアは外国人の受け入れをストップ。米国のみが年に数人を受け入れているが、治療費は20年前の3倍以上に跳ね上がった。「優先して移植してもらうため、向こうの言い値をのむしかない」(支援機関)といい、ドナーに金銭が渡ることはないものの、事実上、臓器を買っているような状態だ。

あやめちゃんの場合も両親の友人たちが募金活動をした。病院に払ったデポジット(預かり金)は約2億1千万円。沙織さんによると、同じ病院には中東の子どもも待機している。「米国でもドナーが減っていると聞き、心苦しさを感じます。でも娘の命が助かる道はこれしかなかった…」

臓器移植法の施行から21年、子どもの臓器提供が可能になって8年たった。今なお、明日の命も分からない子どもの親たちに、街頭に立って募金を呼び掛けることを強いている。子どもの命と引き換えに「心苦しさ」を植え付けてもいる。

国はそれを看過し、有効な手を打とうとしない。日本の移植医療の現実だ。

=2018/08/06付 西日本新聞朝刊=

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