勝者と敗者、ケプカとウッズ【舩越園子コラム】

メジャー通算3勝目を挙げたB・ケプカ 史上5人目の快挙も達成した(撮影:岩本芳弘)

今季最後のメジャー「全米プロゴルフ選手権」を制したのは、2か月前の「全米オープン」で2連覇を果たしたばかりのブルックス・ケプカ(米国)だった。

自身の100試合目で全米プロの100回記念大会を制覇するという筋書きは、おそらくは勝利の女神が茶目っ気を出して描いたものに違いない。メジャー3勝目、米ツアー通算4勝目。同一年に全米オープンと全米プロを制したのは史上5人目の快挙だ。

数々の数字や記録はもちろん素晴らしいのだが、やっぱり一番素晴らしかったのは、ケプカが昨年と今年の全米オープン同様、今大会でも首位を守り切った冷静さだった。メジャーチャンピオンになる以前のケプカは、いつもイライラしていたという。

「こんなに練習しているのに、こんなに努力しているのに、なぜ僕はたった1勝しか挙げられていないのか?」。そんな自問自答の日々の中、エリンヒルズで開催された昨年の全米オープン最終日を2位タイで迎えたケプカに、土曜日の夜、電話をかけてきたのは親友のダスティン・ジョンソン(米国)だった。

「勝とうとするな。ひたすら耐えろ」。その一言を忠実に守り、ケプカはメジャー初優勝。以後、彼の表情はすっかり穏やかになり、それと比例して成績も向上していった。

今年1月、左手首を痛め、「軽いものを持つこともできなかった」という深刻な状況で4か月超も戦線離脱。「マスターズ」にも出られず、復帰の目途さえ立たない不安な日々を過ごした。「あのときほど戦いたいと思ったことはなかった。心の底から試合に出たいと思った」。

5月に復帰したときは、再び戦える状況が、ただうれしく、ひたすら感謝の念を抱いたそうだ。「もう一度、戦える。それだけでも十分に幸せだと感じた」。そう思ったら、多少のミスやスコアの乱れは、なんてことはないと思えるようになった。そんなメンタル面の変化がケプカに全米オープン連覇をもたらし、そして今度は全米プロ制覇につながった。

「今週はずっといいショット、パットが打てていた。練習場で(コーチの)クロードは僕の真後ろに立って『完璧だ』としか言わなかった」。その一言を信じ、終始、自信を抱きながらケプカは堂々とクラブを振り続けた。

単独首位で迎えた最終日。アダム・スコット(オーストラリア)、ジャスティン・トーマス(米国)、そして王者タイガー・ウッズ(米国)が追撃をかけ、優勝争いは大混戦となった。だが、後半に入ると、ケプカは黙々とパーを拾い続け、そしてベルリーブの最難関と言われる14番から17番の4ホールで危なげなく2バーディを奪い、ウッズに2打差を付けて見事に勝利を飾った。

18番グリーンからクラブハウスへと続く選手用の橋がある。ウッズが橋を渡るとき、その下には大勢のギャラリーが隙間なく立ち、橋の上を行くウッズに熱いコールを送った。勝者ではないとわかっていても、その姿は、まさにヒーローだった。

この日、大観衆がウッズの復活優勝を望んでいたことは疑いようもない。勝者ケプカが橋を渡るとき、橋の下の観衆はウッズのときより少しばかり減っていた。

「僕は大観衆にとってはアゲンストだった」。ケプカ自身、そう振り返った。だが、それでも自分のナイスプレーをフェアに讃えてくれたギャラリーに向かって「キミたちは最高だった」と感謝を伝えると、人々も大きな拍手と歓声で彼の勝利を祝福した。

何より、橋を渡って降りたその先で笑顔のウッズが待っていてくれたことが、ケプカの優勝物語をさらに素晴らしいストーリーにしてくれた。「おめでとう!」。ウッズの大きな声が響き渡り、2人の笑い声が弾けた。

ケプカがメジャー3勝のチャンピオンになった日は、王者ウッズがグッドルーザーになった日。そんな最終日の夕暮れどき、ベルリーブの人々はみな静かに微笑んでいた。

文・舩越園子

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