【現地レポート・自動車パネル用アルミ板、中国で需要拡大】〈新エネルギー車向け急増〉米ノベリス、神鋼が攻勢 新興中国勢も市場参入に意欲

 中国で自動車パネル用アルミ板(ABS=オートモーティブ・ボディ・シート)の市場が本格的な拡大期に入った。中国政府が新エネルギー車(NEV)の普及にかじを切ったことで、自動車軽量化需要が本格化。先行する米国や日本のアルミ板大手がシェア拡大に本腰を入れる中、中国系メーカーも販売実績を増やしている。

 中国では、政府が「中国製造2025」政策の実現に向け、電気自動車やプラグインハイブリッド車(PHV)といったNEVの普及を後押ししている。欧米や日本、中国系自動車メーカーに加えて、比亜迪(BYD)や上海蔚来汽車(NIO)など新興メーカーの参入が相次ぐNEV市場は、2020年までに200万台、25年には700万台に拡大すると予測されている。

 NEV市場の拡大とともに軽量化素材であるアルミを使用した部材の需要増加が期待されている。米系圧延大手の予想によると、16年に年4万9千トンレベルだったABS市場は、今年には2・3倍の年11万3千トンに到達。さらにNEV車種の増加や採用部位の広がりによって24年には18年比で3・6倍の年40万4千トンに成長するとされる。

 鉄鋼や炭素繊維との競合はあるものの、価格が比較的安価な中国において、軽量かつ成形性に優れるアルミに対する期待は大きい。

 7月初旬。米テスラが上海に年50万台規模のEV工場を建設すると公表した翌日、上海でアジア最大級のアルミ展示会「アルミニウムチャイナ2018」が開幕した。地元の中国勢のうち、複数の企業がABSの実物を持ち出して自動車メーカーの購買担当者にPRしていた。その中で注目を集めたのは4年ぶりにアルミチャイナに登場した世界最大手の米ノベリスだ。

 中国のABS市場においてトップに立つノベリスは、米国や欧州で築いた自動車メーカーとの関係性を生かし、14年に中国・江蘇省の常州工場を稼働させた。中国国内で初めてのABS専用ラインは欧米系のほかNIOなど現地系メーカーからの受注が相次いだことを受け、ラインの増設を決定。20年をめどに倍増の20万トンに供給枠を増やす考えで、今回の展示会では自動車メーカーの調達担当者のみを対象に常州工場の見学会も開催したもようだ。

 盤石に見えるノベリスの中国ABS戦略だが、「輸入ABSを除けば、中国市場においては神戸製鋼と南山アルミ業が強力なライバルだ」―こう話すのはノベリスの中国ABS営業担当者だ。

 1980年代からABSを研究開発してきた神戸製鋼所は、16年には天津にABS工場を建設。ノベリスに次いで中国で2番目のABS専用ラインの稼働は現在順調だ。天津拠点の出荷の伸びに対応するため、神鋼商事が蘇州のコイルセンター子会社に板加工設備などの増強を決めたほか、新拠点の設置も将来構想に入れている。

 中国民営大手の南山アルミ業もシェアを広げている。年間販売量は月5千トンを超える規模とみられ、欧州自動車メーカーの中国合弁工場にABSを供給するだけでなく、国産有力ブランドも販売先に名を連ねている。

 先行する3社を追うのが国営大手のチャルコ傘下の西南アルミ業だ。数年前から生産を本格化している同社は、複数の現地系自動車メーカーに納入実績があるほか、グループの研究施設で自動車用アルミ部材の開発を進めている。

 欧州系自動車メーカーとテストを続けている南南アルミ業は「品質承認を早期に獲得し、月1500トンレベルで販売していきたい」と展望。河南中孚実業も「来年中にまずインナーパネルの量産化したい」とスケジュール感を示すほか、河南明泰アルミ業はインナーパネルで出荷実績を有しているもようだ。

 このほか中国忠旺集団傘下の天津忠旺アルミ業やチャルコ系の中アルミ瑞ビンなどがABS市場参入に意欲を見せる。

 既存プレーヤーによってすでに寡占状態にある米国や欧州市場とは違い、中国市場はノベリスや神戸製鋼などの上位メーカーが存在するとはいえ、まだまだ群雄割拠時代。技術面で劣る中国の新興圧延メーカーだが、最新鋭の設備を活用して短期間で市場でのプレゼンスを高めてくる可能性もある。

 拡大する市場で各社がどのような戦略を描くのか、今後の動きから目が離せない。(中国・上海=遊佐 鉄平)

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