【日本メタル経済研究所・調査研究レポート「EVとメタル」執筆者に聞く(上)】EV普及電池コスト削減が課題 ニッケルは増産投資が需給の鍵

 日本メタル経済研究所がまとめた調査研究レポート「EVとメタル」が、非鉄金属業界だけでなく自動車関連業界など、さまざまな業界で大きな反響を呼んでいる。電気自動車(EV)を取り巻く世界の状況やEV化の動向、EVに使われる金属素材の将来などを海外での現地調査なども踏まえて詳細にまとめてある。同書を執筆した大山好正氏、中村廉氏、高津明郎氏の3氏に話を聞いた。(相楽 孝一)

――EV化の背景を解説してもらいたい。

大山「IEA(国際エネルギー機関)の2℃シナリオに代表される地球温暖化問題が最大の影響だろう。それをベースに、パリ協定での温室効果ガス排出量の削減目標、各国の自動車の燃費・CO2排出規制とつながる。規制は欧州が最も厳しく、21年にはEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)を投入しないと達成が難しい規制が控える」

「電動自動車編」を担当した大山好正氏

 「そもそもはフォルクス・ワーゲン(VW)の排ガス規制違反が発端だ。クリーンディーゼルはトヨタのハイブリッド車(HEV)技術に危機感を抱いた欧州勢が欧州へのHEV参入を防ぐために広めたと言われる。この狙いは成功したが、VWは米国でシェアを伸ばせなかった。これに焦りを感じ、また、米国の環境規制をクリアする技術力がなかったために不正に走ったと言われている。欧州でもディーゼルのシェアが落ちていく中で、いまさらHEV技術のキャッチアップは難しい。結果的にEVと言わざるを得なかった、それを欧州の政府も後押ししたということだと思う」

――行き過ぎたEVブームの揺り戻しもみられる。

大山「EVブームは欧州や中国の方針転換をメディアが大々的に報じたことも一因だが、冷静に考えれば既存技術でEVは成立しにくい。EVは電池容量を大きくし、走行距離を長くするほどニッケルやコバルト、リチウムといった希少資源を多く必要とし、電池コストも高くなる。電池は素材がコストに占める割合が高く、量産効果でコストを下げにくいという指摘もある。一方で全固体電池、あるいは革新電池と呼ばれる電池が開発され、重量当たりの出力が数倍になるとか、コバルトが不要になれば金属使用量は減らせる。要は電池が安くなる時期の問題だ。ただ、そういった電池が大半を占めるようになるのは30年以降になると予測する。電池が不便なく使えて利益も出せるようになるまでは、自動車会社も規制を満たす、あるいはクレジットを払わずに済む程度にEVを生産しようというのが本音ではないか」

――電池に使う資源の需給についても聞きたい。リチウムから。

中村「埋蔵鉱量は潤沢にあり、価格が上昇したことで本来はコスト高の豪州の鉱山系も増産を進めている。一方、急速な増産で目先は過剰懸念も出始めている。だが、価格が下がり過ぎると停まる鉱山があると予想されるため、良いところでバランスするだろう。そういう意味ではリチウムはあまり心配する必要はないと思う。中国は豪州で生産されるほぼ全量を輸入し、南米からも集めているが、中国が独占して他国が調達に困っているという状況ではないと思う」

――ニッケルについてはどうか。

中村「埋蔵鉱量にはさまざまな見方があるが、レポートでは十分あるとした。ニッケルは7割がステンレス用途、二次電池用は5%で、そのうち自動車用はさらに少ない。つまり車載電池用途が多少増えても影響は小さい。ただ、仮にEV化が高レベルで進めば30年で最大需要量が380万トン(17年は約220万トン)、車載電池用途の比率が20%と予測した。それでも鉱山が増産投資し、かつ硫酸Niを作る工場が増えれば資源はあるので対応できるだろうと予測する。一方で価格が長い間停滞したので鉱山会社の投資意欲が上がっていない。需要が伸びると言われる中で鉱山投資が出てくるかが鍵。ただ、供給が細れば価格が上がり、鉱山も増産に動くだろう。一方でそうなると埋蔵鉱量は減り、ライフが短くなる可能性はある」

――コバルトは。

「資源編」を担当した中村廉氏

中村「市場が小さいため、価格が乱高下しやすい。価格はここ2年ほどで3倍まで上昇したが、6月ごろから少し下げている。これは上昇しすぎたので調整に入ったのだろう。そうした価格の乱高下があると、大手の非鉄会社は手を出しにくい資源と言えるかもしれない。埋蔵量はコンゴが48%、ライフは今の生産量でいくと57倍となり、十分あるようにみえるが、このまま需要が急激に増えると埋蔵鉱量は少し心配かもしれない。主要生産国はコンゴ、中国以外では、カナダ、豪州、ロシア、ザンビアがあり、この4カ国は引き続き安定して出てくるのではないか」

 「コンゴに半分以上のコバルトがあるということでカントリーリスクもある。政情不安がまだあるし、最近は資源ナショナリズムの高まりから増税政策の動きもあり、増産に向かいづらい。さらに児童労働問題もある。LMEも供給元が証明された製品のみを扱う方針を出しているのでこれも生産抑制につながる要因だ」

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