【日本メタル経済研究所調査研究レポート「EVとメタル」執筆者に聞く(中)】コバルト、25年前後に不足の可能性 堆積残渣からの回収に注目

――コバルト原料についてもう少し解説してもらいたい。

中村「コバルトは鉱床タイプが3種類ある。一つはコンゴなどのカッパーベルトにある堆積性層状銅鉱床で、これが現状では全体の生産量の半分から6割ほど。銅の副産物で、銅に対して約20%の品位があるが、実際の採収は10%ぐらいだと思う。このため、堆積場にもかなり残っていると推測できる。次がニッケルのラテライト鉱床。ニッケルの副産物で回収されるもので、これは簡単に増産できない。最後がカナダやロシアの硫化鉱型ニッケル鉱床で、ニッケルや白金族の副産物。これもやはりコバルト目当ての急激な増産は難しい」

中村氏

 「カッパーベルトに話を戻すと、堆積残渣からのコバルト回収が注目されている。これは銅製錬で銅を優先的に回収してきた鉱山の堆積場に相当量のコバルトが残っているはずだというもの。10年ほど前から回収が始まり、新しいプロジェクトも出始めている。どのぐらい残っているかだが、個人的にはこれまで回収したコバルトと同じぐらいの量が残っているだろうとみる。現在の年間需要の3~4年分ほどはある可能性があるので、相当インパクトのある資源だ。だが、これは回収コストが高いのでコバルト価格が低いとできない」

――コバルトの需給見通しは。

中村「供給量は現在の12万3千トンから22年に最大で20万トンと予測した。そのほとんどがカッパーベルトからの増産で、ラテライトなどからの増産はあまり含んでいない。増産の中身は高価格下での低品位鉱山の操業再開、それから堆積場からの回収。それらが計画通りに進めば約20万トンになるが、カントリーリスクを考慮するとそこまでは難しいかもしれない。最大需要量は30年にEV用で22万トン、総需要で38万トンと予測し、それを一定の成長率で捉えると22年までは供給に余裕があるようにみえる。ただ、増産が進まないと25年前後に需給バランスが崩れ始める可能性がある。加えて言えば私の予測はやや楽観的で、5月のコバルト協会の世界会議では22年に10万6千トンの供給不足になると予測している」

――マテリアルフローもお聞きしたい。リチウムについては。

高津「電池用のリチウム化合物は炭酸Liと水酸化Liの2種類がある。炭酸Liが主流で、産地は南米。中国、韓国、日本、米国が輸入している。水酸化Liはチリもあるが、米国と中国が上位だ。米国は炭酸Liを輸入し、水酸化Liに変えて輸出している。中国は自前資源を使って水酸化Liを作ることもあるが、多くは豪州のグリーンブッシュ鉱山の鉱石を中国国内で処理して日本や韓国に輸出している。グリーンブッシュには中国企業が工場を作って水酸化Liにして輸出するという形態もある」

「製錬編」を担当した高津明郎氏

――ニッケル、コバルトについては。

高津「ニッケルは硫酸Niを例にとると、原料はフィリピンで生産されるニッケル・コバルト混合硫化物はほぼ全量が日本に、パプアニューギニアで作られるニッケル・コバルト混合水酸化物は中国に輸出されている。中国はそれ以外の硫酸Ni原料も多く輸入していると推測される。一方、硫酸Niの輸入国は1位が日本、2位が韓国。つまり中国は硫酸Niを輸入しなくても自分たちで作れるということだ」

 「コバルト資源はコンゴが中心で中国に流れている。代表例として華友という中国企業がコンゴに現地法人を作り、資源調達している。これは精鉱と租水酸化Coという形で中国に輸出される。華友の中国での生産能力はコバルト製品で年間3万トンと言われるが、第1四半期の生産量が1万トン。つまり原料さえあれば多少は能力以上に作れるということだ」

――電池技術の進歩による省資源効果も試算している。

高津「LIBの三元系と呼ばれる正極材にはいくつか種類があり、現時点で多く作られているのがNMC532と呼ばれるもの。532自体、昔の三元系に比べてコバルトは減ったが、そこからさらに半減できるNMC811という種類もある。LIBにコバルトがどのぐらい使われるかというと、そうした電池のタイプ(コバルト含有量)や正極材の単位重量容量などで決まる。単位重量容量は正極材の構成でポテンシャルが決まるが、そのポテンシャルをどこまで引き出せるかがポイント。現状はポテンシャルを引き出し過ぎると安全性の問題があるので、容量と安全性との妥協点で作られている。だが、技術進歩で安全性を確保しつつ、ポテンシャルを上限近くまで引き上げられればコバルトは減らせる。また、電圧も現在はおおむね4ボルト弱だが、これも上げられればコバルトの削減効果がある。レポートではNMC532で単位重量容量を150アンペアアワー(Ah)/キロを190Ah/キロに、電圧を3・8ボルトから4・1ボルトに上げられれば30年の最大需要量の予測に対して6万トンのコバルト削減効果があると試算した。試算は532だが、811になればさらにコバルトが減る余地がある」(相楽 孝一)

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