【高校野球】育成のプロが評価する創志学園・西の「素材」 金足農・吉田を上回る長所も

ヤクルト、阪神、楽天でヘッドコーチや2軍監督を務めた松井優典氏【写真:岩本健吾】

2回戦敗退も甲子園でインパクト、名将・野村克也の“右腕”松井氏は「間違いなく楽しみ」

 第100回全国高等学校野球選手権記念大会第11日の第1試合で、創志学園(岡山)は下関国際(山口)に4-5で競り負けて2回戦で敗退した。注目の2年生エース・西純矢は9奪三振も9四死球を与え5失点(自責4)。179球の熱投で勝利を目指したが、あと1歩及ばず2点リードの9回に逆転を許した。

 序盤は乱れたものの、中盤以降は投球を立て直していた西だったが、勝利まであと3アウトと迫った最終回は先頭から四球、死球と再び制球が定まらず、連打と犠飛で逆転を許した。名将・野村克也氏の“右腕”としてヤクルト、阪神、楽天でヘッドコーチや2軍監督を務め、鳴り物入りでプロ野球の世界に飛び込んできた若手選手を数多く指導してきた松井優典氏は、序盤と終盤の“乱調”を見た上で西が投手として「過渡期」を迎えていると指摘。そして、将来を見据えて「間違いなく楽しみな素材」と高く評価した。

 制球の乱れが目立った試合前半の西について、松井氏は「どこか体調が悪いのではないかと心配になるくらいの立ち上がりでした」と振り返る。ただ、それほど調子が悪く見えた2年生エースを懸命に引っ張った捕手の藤原のリードが光っていたという。

「調子の悪い西君をキャッチャーの藤原君が本当によくリードしました。おそらく、藤原君は普段の投球練習でも西君の投球フォームについて自分でチェックしたりとか、西君が教えてもらっていることを聞きながら、かなり勉強していたと思います。この日はアドバイスをしたりとか、ミットの構えを慎重にしたりとか、一生懸命リードしようというところが見えました。

 結局、軸になる球種が見つけられないという中で、5回くらいから西君は立ち直りました。投球フォームについての藤原君のアドバイスもあったでしょうし、それを西君本人も意識していたことが理由としてあったでしょう。技術的に言うと、ステップしたときに軸が一塁側に傾いていたように見えました。要するに、開きが早かった。そこを修正しながら、5、6、7、8回には調子が戻ってきていました。藤原君は下級生エースの西君をうまく“操縦”した。本当にいい仕事だったと思います」

 ところが、2点のリードを奪った迎えた9回は踏ん張ることができなかった。

「9回は平常心ではなく、悪い立ち上がりに戻ってしまった。修正して戻ってきたはずが、2点差がついたことで、力んでしまった。また最初のイニングのようなボールの抜け方に戻ってしまいました」

 この流れから、松井氏は「今日の投球を見ていると、西君は“過渡期”を迎えているかもしれないなと感じました」と指摘する。どういうことか。

「ここから1年の成長過程を見ていきたい。そんな気にさせる投手」

「例えば、ピッチャーは『気持ちが乗っている』などとよく言います。ただ、機械が同じ運動をしたら、同じところにボールが行きます。いくら緊張していても、精神的に乱れていても、いい投球フォームで投げれば、いいボールが行く。そこがピッチャーの目指すところです。精神的に乱れるに決まっている。普通の精神状態で投げられるピッチャーなど誰もいません。そこが出発点で、そういう中でどのようにして自分の投球フォームで投げるか。それがピッチャーが一番やることです。ただ、その精神状態とフォームの関係が常に1球1球、動いてるのがピッチャーの難しいところです。

 そして、感覚というのはどんどん変わってきます。西君はここまで結果を残しましたが、今日は思ったようにいかなかった。藤原君が一生懸命リードする中で、西君はどう崩れているかを理解できていなかったように見えました。そして、9回は立ち上がりと同じ感覚で投げていた。ここから体が大きくなれば、全体的なバランスが崩れてきます。そこで大事なことは、いい形のフォームでずっと投げられるか。例えばこの試合では、同じ感覚で投げても『ボールがいかない』『コントロールが乱れた』『なんとか同じにしたい』という繰り返しだったと思います。ここから感覚はどんどん変わっていく。過渡期というのはそういうところです。この先、西君がそこに自分で気がついて、来年もう1段階ランクアップできるか。非常に興味があります。ここから1年の成長過程を見ていきたい。そんな気にさせる投手ですね」

 2年生ながら、その能力の高さは甲子園で存分に見せつけた。来年は間違いなくドラフト候補としてプロから熱視線を浴びる存在。松井氏は「将来が楽しみな素材であることは間違いありません」と断言する。

「西君のいいところは、直球、スライダー、カーブの腕の振りが一緒であるところです。直球と変化球の腕の振りが一緒というのは、バッターとしてはすごく打ちづらい。これが一番の長所。金足農の吉田君は、同じ腕の振りで真っ直ぐの球速差を出せる投手です。ただ、変化球で少し振りの弱さが出るのが現時点での課題で、ここを直せば将来もっと素晴らしい投手になります。

 直球と変化球の腕の振りの違いという点では、西君が吉田君より勝っています。それが、スライダーとカーブのキレの良さを生み、バッターの打ちづらさになっていました。好投してきた大きな理由です。あとは、西君が最上級生になってどう過ごしていくか。藤原君はいなくなります。今度は、自分が藤原君のような周りを引っ張る存在、役割になります。その中でどこまで成長するか、楽しみですね」

 甲子園を沸かせた右腕が、スケールアップして聖地に戻ってくることを期待したいところだ。(Full-Count編集部)

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