【日本メタル経済研究所調査研究レポート「EVとメタル」執筆者に聞く(下)】レアアース、供給リスク低い 必要資源量の見極め重要

――レポートではEVで増える銅についても触れている。

大山「足元の世界需要2千万トン強に対して、EVで増える銅量は約200万トンと予測し、コバルトなどに比べれば供給リスクは低いとした。だが、世界的に鉱山の品位低下や不純物の増加などの課題があるほか、200万トンをカバーできる採算性が合う鉱山があるかなど課題がなくはない。また、予測も中国の現行EVをもとにした概算であること、技術的予測は反映していないことは言っておきたい。銅価格が上がれば使用量は抑えられるだろうし、ワイヤーハーネスのアルミ化や銅箔の薄型化、製品の小型化などは進展する可能性がある」

大山氏

――LIBリサイクルはどう反映したか。

中村「廃電池が出るのはEV普及から10年ほどはかかる。本格的に出始めるのは30年以降になるだろうというのが我々の見方で、今回はあまり織り込まなかった」

高津「廃電池を処理するには通常、ニッケルとコバルトを溶かして抽出するが、問題はニッケルとコバルトの混合溶液からそれらを分離する費用が高いこと。技術はあるが、コストに対して分離・精製した金属の売値とのバランスがどうか。一方で今後は省コバルトが進むので出てくる廃電池のコバルト量は減る。そこでリサイクルコストと販売利益のトータルで採算が合うかが課題だ」

大山「時間とお金をかけて技術開発すれば必ずリサイクルできるようになる。ただ、足元では発生量が少ないため事業が成立しにくく、インセンティブが働きにくい環境なのだろうと想像する。一方で試験的な開発は進められているし、欧州のユミコアのように資源が戻ってくる特別な仕組みを有する企業は集まってくるからできているところもある」

中村「各社ともコバルト回収には力を入れている。我々の見方は、実際にビジネスになるのは少し先になるだろうということで、技術開発を否定するものではない。今のうちに取り組んでおいたほうが良いのは間違いない」

 「リサイクルと同様、コバルトリッチクラストについてもよく質問される。これも資源量は潤沢にあるが、経済的に回収できるのはまだ先になるとみて今回は反映していない」

――レアアースの供給を気にする声もある。

高津「レポートでは10年に起きたレアアースショックが再来するかを企業の取り組みなどを踏まえて報告している。結果的には技術や需給の両面から考えてそれがくる確率は非常に低いとみた。特に豪州のライナスプロジェクトが上手くいったことが決め手で、当面はレアアースショックが突然起こることはないと考える」

高津氏

大山「モーター類の開発は参画企業や技術者の数がかなり増え、技術革新が急速に進み出している。そういった中で個人的には将来的にレアアースフリーが出てもおかしくないと考えている」

――ニッケルとコバルトの相関性についても聞きたい。コバルト価格が高いとHPALの開発は進むか。

中村「ニッケルの需要と価格はステンレスの需要次第で、端的に言えば中国の経済動向に左右される。ここ半年ほど価格が戻ったのはEVブームもあるが、中国景気によるものだと思う。そういう意味では副産物であるコバルトだけを狙ってニッケルを増産するのは難しいと思う」

 「私の推測だが、住友金属鉱山が手掛けているようなリモナイト鉱、ニッケルが低くてコバルトがやや高いという山はそれほどないと考えている。コバルト価格が上がればインセンティブにはなるが、HPALには高度な技術が必要だということもある」

――EVは補助金政策で支えられているとも言われる。

大山「香港が好例で、補助金を減らした途端、販売台数が急激に落ちた。補助金は台数が少ないから多く出せるのであって、台数が多くても補助金を出していたら国の財政がもたない。補助金政策はトリガーにしかなり得ない。補助金政策と相まってそれを超えたコストダウンが成立すれば順調にいくだろうが、当面はこうした動きが他国でも起こり得ると思う」

――中国がコバルト権益を高めていることにリスクはないか。

中村「当然ながら日本で製造する電池の分は確保する必要がある。だが、重量物である電池を日本で作って輸出するというのは想定しづらい。中国も国内産の電池にしか補助金を出さない。つまり日本で必要なコバルト量がどのぐらいかということが一つ。一方でいざという時に中国から高コストで買わなければならなくなるとしたらリスク。ある程度の権益は必要だと思うが、それも断定的に言えないのが悩ましいところ」

 「オフテイクも含めコンゴ産の8割が中国に行っているが、これは必要だから調達しているということで、中国自体、世界シェアで6割のコバルト製品を生産している。需要は中国にあるということだ」

大山「EV自体も同様で、世界のEV台数の半分が中国で作られているが、それは国内で使用するためであり、輸出していない。コバルトが中国に集中しているのも内需を満たすためであって一概にコバルトを独占しようとしているとは言えないのではないか」

 「30年以降にはリチウムやコバルトが不要な電池になる可能性がある。そうなって電池コストが安くならないとEV自体も安くならない。ただ、電池もまだどれが正解かわからない。少なくとも全固体電池は正極材、負極材が必要だが、金属使用量は減る。革新電池にはニッケルやコバルトを使わないものもある。そうした技術が成立するとニッケル、コバルトの供給問題は解決するし、必要な金属が変わってくる可能性もある」(相楽 孝一)

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