被爆者の証言、大学生が記録映像に 伊勢原で19日上映

 「ものすごい閃光(せんこう)、真っ白い光」「国が危ない方向に進んでいると感じ取って」-。東海大学文学部(平塚市北金目)の学生が、伊勢原市内の被爆者の貴重な証言やメッセージを記録したドキュメンタリー映像を完成させた。広島、長崎の当時の様子を伝えるだけでなく、現地を訪れて今なお残る被害の爪痕に接し、「目をそらしてはいけない」と悲劇を次世代に継承する。

 5月のすがすがしい日差しが照らす伊勢原市内の住宅。カメラを構えた広報メディア学科の学生たちが囲んでいたのは、「伊勢原被爆者の会」副会長の小渕義信さん(85)だ。12歳の時、長崎で被爆。核兵器が使われたことに「兵隊同士が死ぬのではなく、一般市民が殺される。口にも表現しかねる惨めな死に方。そんな形で死を迎えることがあっていいのか」と言葉に力が入る。

 インタビューした4年生の鎌田夏帆さん(22)は福岡県出身。6月には小渕さんの故郷、長崎市内を訪ねた。小渕さんの母校である旧長崎県立瓊浦(けいほ)中学校跡地(現県立長崎西高校)の銘板や長崎原爆資料館などを撮影。「話を聞くと、見える景色も違った。戦争がどれほど悲惨だったか身に染みた」と語る。そして「目をそらせてはいけない。小渕さんから聞いた話を次の世代に伝えたい」との思いを強くした。

 制作には3、4年生の男女8人が当たる。指導する水島久光教授(56)は戦争関係の映像を研究・記録してきた。2014年秋から伊勢原市にゆかりのある戦争体験者にインタビューし、16年までに10人の証言を記録。作品は市内で昨夏開かれた「平和のつどい」で上映した。

 戦後73年を迎え、戦争体験者が少なくなる中、「今やらなきゃいけないことは体験者と若い人が対話し、考えたことを共有すること」と強調。戦時中の空襲や被爆など、現地を訪れて「日常が徐々に壊れていった様子」を理解する重要性を指摘する。

 今年は伊勢原市が中学生を広島市へ派遣する事業と戦争体験者のインタビューを近づけたいと市に提案し、作品制作が決まった。

 学生たちは5月に秦野市内で行われた小渕さんの講演の様子も撮影した。「午前11時2分というのが、原爆が炸裂した時間。ものすごい閃光というか、真っ白い光。どーん、という爆音が一度に降りかかった」

 3年生の野口雄大さん(20)は質疑応答で「私たちも親の世代も戦争を経験していない。被爆者として私たちに願うことは何でしょうか」と尋ねた。小渕さんは「国が危ない方向へ進んでいるということを感じ取る感性を養ってほしい」と応じ、「完全に核が廃棄されるまではほど遠い。若い世代が核廃絶を発信し続ければ道が開けるのでは」と助言した。

 今月6日に初めて広島市の平和記念式典に出向いた野口さんは撮影を終え、決意を新たにした。「体験を次の世代に伝える役目を託されていると感じた」

 映像は19日午後1時から伊勢原市民文化会館(同市田中)で開かれる「平和のつどい」で上映する。作品には戦争体験者の市民3人のインタビューも収める。上映時間は約15分の予定。中学生派遣事業に学生が同行して撮影した映像作品も上映する。入場無料。問い合わせは、市市民協働課電話0463(94)4711。

水島教授(左から2人目)が見守る中、インタビュー映像を編集する学生=平塚市の東海大学湘南キャンパス

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