大人がいても絶えない水難事故!もうやめませんか?「こどもだけで川に行かない」という教え 水難事故の約半分は「周りが気がつかなかった」。静かに沈んでいく「本能的溺水反応」

楽しい夏の川遊び。ライフジャケットが必須です!(Photo AC)

いつもは夏の水遊びシーズン前にライフジャケットの記事を書く事にしているのですが、今年は出遅れてしまいました。やはり例年どおり、水辺の事故で命が失われていることが残念でなりません。例年、水難事故数は横ばいの現象が続いています。

写真を拡大 例年、水難事故数は横ばいの現象が続いている (資料提供:河川財団) http://www.kasen.or.jp/mizube/news_supportcenter/itemid067-000075.html

いいかげん、人が亡くなるのを止められない副次的な対策の啓発に精を出すのはやめにして、学校でもライフジャケットが必須である旨を伝えませんか?

ちょっときつい書き方になってしまいましたけど、こどもの頃、長期休みの注意事項を書いたプリントがありませんでしたか?

「こどもだけで危ない場所に行ってはいけません」という注意書きです。そして、夏の危険な場所の代表例が「川や水辺」でしたよね。

過去形で書きましたが、これは、今でも現役です。

「こどもだけで川に行ってはいけません!」って学校のプリントに今でも書かれています。まとめ記事とか動画や報道でさえも、さも当然伝えなければならない事項のようにまとめられています。だから誰も異論を挟むことはない必須の注意事項の様に思われています。

でも、これ、全く効果がない注意事項なんですよ。もう、伝えなくていいのでは?と思います。なぜかというと、この統計をご覧ください。

写真を拡大 例年、水難事故数は横ばいの現象が続いている (資料提供:河川財団) http://www.kasen.or.jp/mizube/news_supportcenter/itemid067-000075.html

事故件数で最も多いのは、こどものグループではありません。「大人だけのグループ」が全体の3分の1を占めます。そして、次に多いのが「家族連れ」です。

つまり、こどもだけで川や水辺に行ってはいけませんという注意事項を守って大人と一緒に行ったからって、全く安全ではないってことです。そのこどもが大人になって、大人同士で行っても安全ではありません。大人であることは何の安全にも寄与していません。

それなのに、効果ない注意事項を啓発し続ける理由は何でしょう?大人も子どもも効果のある身の守り方を知らないため、惰性で今まで述べられたことを繰り返しているのではないかと私は疑っています。

効果のある身の守り方、それは、川でライフジャケットを着ける、これが一番の対策です。詳しくは過去記事をどうぞ。

■川の水難事故に、泳ぎのうまいへたは全く関係ない!? 海のアドバイスは川では使えません!~川遊びのライフジャケットはシートベルトと同じくらい重要~
http://www.risktaisaku.com/articles/-/1917

ライフジャケットをつけていても危険な場所はありますが、9割が単純溺水と言われる川の事故では、9割は助かった可能性があったということです。

なのに、ライフジャケットのことを伝えずに、「こどもだけで川や水辺に行くこと」が最大の問題のように述べるのは、こどもに責任を転嫁しているずるい大人か、もしくは、無知な大人かのどちらかだと思っています。

学校でライフジャケットのことを教えない理由は何なのでしょう?お金がかかるものだから?誰でも手にいれられないから?そんな余計な事を考えるのも、川がどれだけ流れが複雑で動水圧がかかり、浮力の足りなくなる場所があるか、大人が全く理解していないからではないでしょうか?

「こどもだけで川に行くな」ではなく、「大人と一緒に行ってもライフジャケットを着用しない限り川では危険」と教えるべきです。

水難事故の約半分は「周りが気がつかなかった」。泳ぎがうまい下手は全然関係ない「本能的溺水反応」

ところで、佐久市医師会の教えてドクターのアプリやHPに掲載されている、溺水のこの図をご存知ですか?

写真を拡大 資料提供:「教えて!ドクター」 https://oshiete-dr.net/oshietedr/

子育て世代の方にご紹介すると、これ見たことある!とか、子育て支援センターに貼っているという反応が即かえって来るほど、有名なイラストです。

この「教えてドクター」アプリについては、災害時の時のミルクや母乳の話の記事でも紹介しました。

■母乳育児でもミルクを備蓄??子育て中の親に優しい防災情報を!佐久市医師会情報がステキ!
http://www.risktaisaku.com/articles/-/5279

こどもの病気の話など普段の子育てに必要な情報がつまっていて、いつも使えるアプリだから災害時の情報にすぐアクセスすることができる優れものです。ファンなので私は講演で紹介しまくっています!

で、この溺水の図にあるように、お風呂場でちょっと目を話したすきにこどもがこんなふうに沈んでいたことがある!と、証言する方は私の身近にもいました。事故にならなかったので、統計にはでてこないものの、怖い思いをした保護者の方が多いから、子育てあるあるとして多数シェアされているのです。

お風呂場だけでなく、私はこれをプールで見たことがあります。アルバイトでスイミングのインストラクターしていた時の事。自由時間で泳ぎのうまい小学生が泳いでいたのですが、何かがおかしいのです。

右図にあるような想像で溺れた時の様子のように、バシャバシャなんてしていません。受け持っていたクラスで普段から泳ぐのはもちろん潜ったりするのも楽勝のお子さんだったのですが、何だか沈んでいく感じなのです。そう。静かにって言葉がぴったりの感じで。

なので、慌てて抱き上げたのですが、本人も何が起こっているかわかっていない風でした。息をするのに精一杯で、手を動かすとか、他の動きが全くできなくなっていた、そんな感じでした。

泳ぎがうまくてもプールで溺れることが私には衝撃でしたが、このイラストを見て、あれが「本能的溺水反応」だったのかなと後から理解しました。

プールでも起こるのであれば、流れが複雑で動水圧も強く、空気含有量により浮くことができない場所がある河川では、あっというまに息ができなくなり沈んでいくであろうことが想像できます。

で、こちらの統計もご覧ください。

写真を拡大 資料提供:河川財団

 水難事故の約半数(49.1%)で水難事故救助が行われなかったのですって。これはのちに通報によって救助や捜索が行われたものを除く、初期の救助の有無の統計です。

水難救助がすぐ行われなった原因として、「溺れているのに気がつかなかった」「気がついたが救助できなかった」等があげられています。静かに溺れていたら、気がつかないことが多くても頷けますね。

大人と一緒に行っても全く頼りにならないことがわかっていただけたでしょうか?さらに残念なことに、大人と一緒に行っても、大人が2次災害にあっているという事実があります。

写真を拡大 資料提供:河川財団

親や祖父母、引率者など大人が2次災害にあっています。

写真を拡大 資料提供:河川財団

そして1次災害の場合より、2次災害の死亡率が高いのです。いかに大人が救助法を知らないかの現れではないでしょうか?

飛び込んで助けるのは危険度最上位レベル!救助は陸上からが基本です!

「救助方法も知らない大人と一緒に行っても事故にあうだけではなく、大人が死亡する2次災害も多い」ということが統計から読み取れる事実です。ですので、何ら役にたたない「こどもだけで水辺に行かない」という啓発をこどもにいい聞かせる必要性はないと感じています。

また、こどもだけに限らず大人と一緒でも、グループで行動している方が、事故が多い(6割)のです。「複数人で行動すれば安全だと思い込んだり、油断したりすることに注意が必要です」と分析されています。

写真を拡大 資料提供:河川財団

一方、こどもでも大人でも、単独行の場合は、「救助の手立てがなく、ちょっとした転落がそのまま人的被害につながるケースも多いと推測される」とあります。

ですので、「こどもだけで行かない」という啓発ではなく、「単独行だと、救助されない危険があること、こども複数だろうと大人と一緒にだろうと、グループの方が危険であること」を啓発しなければいけないのではないでしょうか?

さらに、もうひとつ、重要なポイントがあります。おとなと一緒に行った場合でもこどもをひとりにしてしまうと危険になっているという事です。

写真を拡大 資料提供:河川財団

最後の「別行動」をみてください。「家族や大人と一緒に川を訪れたものの大人と別行動し、こどもだけで川に立ち入っておぼれたケースなど」があげられています。

これは、「こどもだけで川に行ってはいけない」とこどもに伝えた所で防げません。こどもは大人と一緒に行ったから安心だと思っています。こどもではなく、大人に、「こどもだけで別行動させない」と啓発しなければいけません。

また、ひとりだけで遊んでいて河岸から落ちたケースが幼児に多いですが、河岸に関わらず幼児の一人遊びは事故にあう確率が高いので、幼児は一人にさせない事が基本ではないでしょうか。

ということで、もう「こどもだけで川や水辺にいかない」と夏休みのプリントに書いたり、報道する必要はないと私は思っています。

それよりも、川の対策としては、最も重要なライフジャケットの啓発に力をそそいでほしいです。脱げない靴も重要ですが、あくまで副次的な情報で、何よりもまずライフジャケットです。優先順位を間違えずに報道してほしいと思います。

そして、大人がちゃんとした救助法を知ってほしいと思います。大人だって川ではライフジャケットが必須であることは変わりないですが、どれだけの人が知って実践しているのでしょうか?

また、救助は陸上からが基本であることを、どこかで学びましたか?

写真を拡大 資料提供:河川財団

 「こどもだけで川にいってはいけません」という啓発で、「おとなと一緒に行きました」→「ライフジャケットがないため、こどもが溺れました」→「大人が助けにいきましたが、ライフジャケットもつけずに飛び込んで遭難者を引いて戻ろうとする致死率の高い救助を実践して、2次災害で大人も死亡しました」となるのは目に見えているのです。

もうこんな愚行は終わりにしましょう。啓発するなら、啓発したい内容ではなく、効果のある啓発をどうかよろしくお願いいたします。

海でもライフジャケットは効果絶大!

今回は川をメインで書きましたが、海についても海上保安庁がわかりやすい新規資料を公開しました。

出典:海の安全情報(海上保安庁) http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/mics/

その中では、シュノーケリング中にライフジャケットなど浮力体を必ず着用するように記載されています。

写真を拡大 出典:「夏季における人身海難の傾向と対策」(海上保安庁) https://www6.kaiho.mlit.go.jp/info/keihatsu/2018summerman.pdf

また海では「助けてサイン」といって、手をふって救助を求めることが生存につながります。これについて、ライフジャケットなどの浮力体がない場合は、手をふることでかえって沈むことになっていくので、浮力体がない場合は、サインを送ってはいけないと書かれています。

写真を拡大 出典:「夏季における人身海難の傾向と対策」(海上保安庁)https://www6.kaiho.mlit.go.jp/info/keihatsu/2018summerman.pdf

「人間は、肺に空気が入っていれば基本的に水に浮き、肺に空気が入っていないと水に沈みます。肺に空気が入っている場合、最大で人体の約5%(淡水では最大約2%)が浮きます。」(Water Safety Guide/海上保安庁)
https://www6.kaiho.mlit.go.jp/info/marinesafety/00totalsafety/06swimming/11_attention.html
 
肺に空気があれば、淡水より浮きやすい海であってもライフジャケットの重要性が啓発されるようになっています。学校教育でも川のライフジャケット着用の啓発を避けてはいけないと思っていただければと思います。

最後に「教えてドクター」プロジェクトの佐久総合病院佐久医療センター小児科の坂本昌彦医長さんからのコメントをいただきました。「教えてドクター」は、災害時の赤ちゃんやこどもの話、そして今回紹介した溺水だけでなく、熱中症の啓発でもわかりやすいとニュースになっています。

どうしたらこのようにエビデンスベースで正確な情報をわかりやすく、そして、親にちゃんと寄り添った姿勢で啓発できるのかのヒントをいただければと思ってお聞きしました。

――― いつもわかりやすい情報ありがとうございます。教えてドクターに取り組まれた経緯を教えていただけますか?

坂本先生) 以前福島県の山間部で仕事をしていた当時の経験がベースになっています。その地域は神奈川県と同じ広さなのですが、当時私と妻の2人しか小児科医がいませんでした。

それでも保育園は13園あり、子どもたちはいます。お母さんやお父さんは深夜でも片道1時間半以上かけて、例えば熱が出たお子さんを僕らのところまで連れてきていました。

お母さんたちにホームケアや病院受診の目安などの知識をつけていただくことができれば子育て不安も軽減できると考え、冊子を作って、地域の保育所を巡回して出前講座を行いました。

その後佐久に移った後も、市や医師会の理解も得られたことから、当地域でも同様の活動を始め、イラストデザイナーとともに冊子を作成し、出前講座を行いました。また子育て世代はスマホ世代でもあるので、アプリを開発し、情報が届きやすくなるように工夫しました。

最近はSNSを通じて正しい情報を提供できるようにも心がけています。

――― 溺水の記事を作成するにあたり、これだけは伝えたいと思われた事や、実際の診療で感じられていることがあったら教えてください。

坂本先生) 今年4月に当地域で保育園に通う3000名の保育園児の親にアンケート調査を行いました。回答を得た2000名のうち、子が溺れかけた経験があると答えた親は820名(41%)に上りました。

子が溺れかけている経験を少なくない保護者が持っていることが分かります。また、その9割は自宅の浴槽でした。お風呂は危険だという認識を持っていただければと思います。

また、その8割は溺れた時に悲鳴や声は出さず、6割は音がほとんどしなかったと答えていました。隣の部屋にいても音でわかるから大丈夫ではないと知ってほしいと思います。それはプールや川・海遊びでも同じです。

また、水やお湯から引き上げた後、もし意識がなければ人を呼びつつ、呼吸と脈を確認し、なければ人工呼吸と心臓マッサージを始めなくてはいけません。この初期対応はその子の一生を左右します。

わが子を守るためにも、保護者が子どもの心肺蘇生法(BLS)を学ぶ機会が増えればと願っています。

――― 最後に抱負などあれば教えてください。

坂本先生) いつかアプリの外国語版(英語や中国語)が作れたらいいなと思っています。また、教えてドクターの活動は、将来的には医師の活動ではなく、地域の保護者の皆さん自身の活動として広がっていけばいいなと思います。

お互いに学びあい、教えあって、地域に根差した活動になり、医療者はそれをサポートする。そんな活動が続いていくのが目標です。

――― 坂本先生、お忙しいところインタビューにお答えいただきありがとうございました!2000人中820名(41%)もこどもの溺水経験があるというほど、溺水事故はいつ起こってもおかしくないのですね。家庭内はもちろん、これからの水辺の事故の啓発は教えてドクターみたいに正確で実効性のある啓蒙ができればいいなと思っています。

(了)

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