道徳の授業 試行錯誤 児童取り巻く環境 配慮 長崎県内教員

 2018年度から小学校で道徳が教科化され、県内でも1学期に検定教科書を活用した授業が実施された。ただ児童を取り巻く環境は多様化しており、教科書に基づく価値観だけでは教えるのが難しく、教員は試行錯誤を重ねている。

 「『生命の尊さ』の授業は難しかった」。中堅の女性教諭はこう振り返った。学習指導要領によると、道徳で扱う「内容項目」は22あり、その中に生命の尊さも含まれる。子どもの誕生を喜ぶ両親の気持ちや、慕っていた祖父母の死をテーマにした教材もあるが、「両親が離婚していたり祖父母が亡くなったばかりの子どもがいるクラスもあり、その実態に合わせて配慮が必要。教材に書かれていた発問はせず、生き方を考えさせるよう工夫した」という。

 内容項目の「家族愛、家庭生活の充実」も「父母、祖父母を敬愛」するとしているが、家庭環境や親子関係が複雑な子どももいる。ベテランの男性教諭は「内容項目だけを見ると十分な理解が得られないと思われる記述もある。学習指導要領の解説にもあるように、親が『無私の愛情で育ててくれている』結果として敬愛するようになる。価値観を押し付けないよう、家族からの関わりに目を向けさせ、自分がどうありたいかを考えさせたい」と話す。

 文部科学省は「考え、議論する道徳」を目指しているが、現場からは「低学年では難しい。考えさせる要素を盛り込みつつ、こうした方がいいよと気付かせる」「中学年までは心情を育てる方に力を入れることで議論ができるベースを養う」「日常の学級運営で意見を言い合える土壌をつくっていなければ、いきなり道徳で議論はできない」などの声が聞かれた。

 授業の在り方だけではなく、「評価」も教員を悩ませている。学習指導要領の解説によると、教員は各児童について、内容項目ごとではなく大くくりなまとまりを踏まえた評価をし、他の児童と比較はせず個人内でいかに成長したかを認めて励ますよう、記述式で表す。

 各校に作成・保管義務がある各児童の指導要録には年1回評価を記入する。一方、各家庭に渡す通知表の扱いは校長の裁量にゆだねられ、県教委によると、毎学期の記載や、最後の学期だけ記載などのケースが県内では見られ、後者の方が多いとみられるという。

 若手の男性教諭は「算数など他の教科で到達度を測るのと違い、人間性を評価するので慎重にならざるを得ない。例えば『理解できた』と書くと、以前は理解できなかったのかとなる」と懸念する。また「道徳の授業で子どもが劇的に成長するわけではない。小さな変化も見落とさないためには教員に余裕が必要だが、業務はビルドばかりでスクラップがない」と現場の多忙さを指摘する。

 児童の評価が授業の改善につながるという意見もある。ベテラン教諭は「子どもにとって学びがいがある授業かどうかは、学習状況を評価しないと分からない。評価を通じて子どもは価値の広がりを実感し、教員は授業を振り返ることができる」と話した。

 ◎道徳の教科化

 戦前・戦中の道徳教育は国家主義的な「修身」として行われていたが、敗戦後の1945年12月、連合国軍総司令部(GHQ)が停止。58年に教科外活動として「道徳の時間」が小中学校に設けられたが、他の教科と比べ軽視されているなどの指摘があった。2013年2月、第2次安倍内閣の「教育再生実行会議」はいじめ対策を理由に道徳の教科化を提言。中教審も14年10月、「道徳の時間」を教科に格上げし、検定教科書と評価を導入するよう答申した。小学校では18年度から「特別の教科 道徳」の授業が始まり、中学校では19年度から実施される。

県内の小学校で使われている道徳の教科書の一部

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