未来への「恩送り」

 あしたの朝には見つかっていますようにって、祈ってから寝たの。翌朝のニュースで「見つかった」って。ほんとに良かった。男の子、頑張ったね…。こんな話を身近に聞いた▲「無事発見」の報に全国で安堵(あんど)が広がった-と言っても大げさではあるまい。山口県周防大島町で行方不明になっていた2歳の男児が山中で発見された。一人でいた3日間、何も食べていなかったという▲うっそうと茂った木々が夏の日差しを遮り、沢の水で喉を潤したらしい。木と水がつないだ命といえるが、何よりも男の子の生命力にただ驚く。頑張ったね▲大分県から捜索に参加し、たった20分で発見した尾畠(おばた)春夫さん(78)に称賛の声が集まっている。前に行方不明の女児を捜索した経験が生きたらしい。「幼い子は足に力を入れて(斜面を)登りたがる。下には行かない」とお分かりだった。経験知と直感に感服するが、ただ感じ入るだけでなく、社会全体が経験知に学びたい▲尾畠さんは、営んでいた鮮魚店を65歳で畳んだ後、震災や豪雨の被災地などでボランティア活動に尽くしてきたという。「人にお世話になった。社会にお返しを」と▲「恩を返す」というよりも、別の誰かに恩を回し、恩を送っているのだろう。全身に「未来」の詰まった幼子への「恩送り」に頭が下がる。(徹)


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