春日集落案内所で働く 綾香クニさん(92)、綾香和枝さん(80) 来訪者もてなす「語り部」 人の往来「私たちの活気に」

 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に含まれる平戸市の春日集落。4月に開設した案内所「かたりな」(春日町)で、来訪者にお茶や手作りの漬物を出してもてなし、集落の歴史を語っている。
 禁教期から続く棚田の景観が自慢の春日集落。約450年前の戦国時代にキリスト教が伝わった。住民は禁教期に「潜伏キリシタン」としてひそかに信仰を守り、1873年の信仰解禁後は、「キリシタンの神様」と神仏を併せて拝む禁教期の伝統を続ける「かくれキリシタン」になった。
 クニさんは同市獅子町出身。21歳の時、花嫁衣装を着て約5キロの道を夫と練り歩き、春日に嫁入りした。和枝さんは春日生まれで、実家はかくれキリシタンだった。共に春日の暮らしを知り尽くしている。
 当初は、案内所で接客することに2人とも乗り気ではなかった。しかし、「地域活性化には住民の力が不可欠」と市の担当者に説得され、「春日のためになるのなら」と引き受けた。
 春日には女性だけが集まる「女子( おなご )講」という風習がある。1月15日に観音様のお掛け絵を飾り、食事を振る舞う。約20年ほど前までは、ほぼ男性だけの「キリシタン講」も続いており、聖母マリアに由来する「おフクロ様」というお札を引く行事をしていた。そんな興味深い話も2人の口から語られる。
 約3年前に夫を亡くしたクニさん。来訪者との交流を通じ、人をもてなす喜びを再認識した。「小さな集落でひっそりとした場所だったが、人の往来も増え、私たちの活気につながっている」と笑顔を見せる。
 世界遺産効果で継続的に人が来て、農産物などが売れれば、新たな収入源も生まれる。和枝さんは他県で暮らす孫が春日に来て、生活できる場所にしたいと願う。「棚田の景観を未来につなげるための礎になりたい」と決意を新たにしている。

笑顔で案内所の来訪者を迎える綾香クニさん(左)と綾香和枝さん=平戸市春日町

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