石木ダム映画から

 緑豊かな里山、田んぼを縁取る野の花。農作業に勤(いそ)しむ大人、魚取りに興じる子ども。そんな和やかな田園風景を撮影した画面に、似つかわしくない「ダム建設絶対反対」という看板が映り込む▲石木ダム建設に反対する住民13世帯の生活を追ったドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと」が、長崎市の長崎セントラル劇場で23日まで公開中だ。反対を声高に主張するより、日常を淡々と描く▲監督の山田英治さんは、もともと大手広告代理店でCM制作などの仕事をしていた。知人の紹介で初めて建設予定地を訪れ、住民と話をしたのは2015年▲県が機動隊を投入して実施した1982年の強制測量。その時の写真に写っていたデモをする子どもが、今や4人の子の父親として反対運動を続ける。その歳月の長さを知って衝撃を受けた。ダムが人生を翻弄(ほんろう)し続けるなんて何と不条理なことかと▲石木ダムは県と佐世保市の事業だが、国の補助金が投入される。だからこれは県民の域を超え、全国の人が考えるべき問題だと山田さんは言う▲映画は全国で順次公開中。豊かな自然と地域のつながりを壊すダムは本当に必要なのかと見る人に問い掛ける。県が事業を推進する理由は、全国から向けられる視線に対しても説得力があるといえるだろうか。(泉)

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