「一歩間違えば」虐待も 母親の孤立に寄り添う相談員 子育て中の母親に聞く 

 親が幼い子どもを虐待する陰惨な事件が全国で後を絶たない。背景の一つに、核家族化が進んだ結果としての「母親の孤立」があるという。育児に奮闘する母親と、その悩みに寄り添う人を訪ね、思いを聞いた。

 ■特殊じゃない

 1歳から6歳までの男児3人を育てる県内の女性(39)は、虐待事件についてこう語る。「自分も一歩間違えば、そうなっていた。特殊なことじゃない。どんな親にも(虐待する)可能性はある」

 他県出身で、結婚を機に長崎県へ。長男(6)を出産後の3~4年間、子育てに行き詰まった。「育児に対して、子どもがすやすや寝ている横で編み物をしているようなイメージがあった。でも全然違った。理想通りにできない自分を責めて、ノイローゼになっていた。たたいたりとか、相当ひどいことをしていた」

 長男は生後1~2カ月ごろから、夕方になるとタイマーをかけたように大泣きするようになった。激しい夜泣きが2歳半ごろまであり、「日が暮れていくのが毎日怖かった」。長男にふとんをかぶせて「うるさい」と怒鳴ったり、寝室から廊下に放り投げたりしたこともあった。

 見かねた夫が夜中の世話を一度代わってくれた。夫の感想は「夜勤の方がまし」。以来、育児に積極的に関わってくれるようになった。「旦那さんが育児の大変さを認めてくれるかどうかでも全然違う。言葉だけで救われることもある」

 ■勇気を出して

 日中、近くに知り合いがいない状況は変わらなかった。一人で子どもをみなければならない。誰かと話したい-。話しかけてくれる人がいないかと、毎日ベビーカーを押して街中を歩き回った時期も。まもなく地域の子育て支援センターに「勇気を出して」通うようになり、さまざまな境遇の母親たちと交流を持つことができた。

 「そういう所で話すことは本当に良いと思う。悩みのないお母さんはこの世にいない。あの頃出会ったお母さんたちがいたから、今はゆったりした気持ちで子育てできている。理解してくれるパートナーや環境が整っていれば、テレビで報じられるような虐待事件は起こらないのでは」

 ■理性が働くか

 長崎県の児童相談所が2016年度、児童虐待相談として対応したのは665件。統計開始以降、過去最多だった。虐待を受けた子どもを年代別にみると、0~3歳が146件で最も多く、乳幼児期の育児疲れによるストレスなどが虐待につながっていると考えられるという。

 長崎県は1990年から専用電話「子ども・家庭110番」を設置。近年の相談件数は横ばいで、2016年度は1236件。相談内容は子育ての悩みや発育の心配、SNSの使用、虐待などさまざま。子育て経験がある3人の女性相談員が、交代で親身に応対している。

 相談員の一人は、「まず緊急性があるか、子どもの安全が確保されているかを確認します。電話の向こうの声や音を頼りに、五感を働かせます」と明かす。必要があれば他の適切な機関を紹介する。

 虐待の相談は、母親が切羽詰まった状況にある場合が多いという。「子どももお母さんを大好きだし、お母さんも子どもが大好きなんですが、一時的なその一瞬にお母さんの理性が働くかどうか」

 長崎県では船舶関係の仕事で夫が長く家を空けたり、夫の転勤などで慣れない離島へ移住したりして母親が孤立するケースも少なくない。「電話の向こうでお母さんの顔がほっとゆるんだ瞬間を感じる時がある。話すだけで全然変わる。だからきついときだけでなく、うれしいことがあったときもぜひ電話してほしい」
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 子ども・家庭110番(電095・844・1117)は、午前9時~午後8時(祝日・年末年始を除く)に開設。各市町も相談窓口を設置している。

母親たちの子育てや虐待の悩みに寄り添う「子ども・家庭110番」の相談員=長崎市内

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