【国内建材市場、下期動向を探る】〈(1)鉄鋼メーカー〉高炉、H形鋼などフル生産 電炉、S造シフトで小棒需要減

 2020年の東京五輪・パラリンピック開催までいよいよ残り2年を切った。首都圏では競技関連施設に加えて、大型の再開発案件も着工のピークを迎え、郊外では大型物流倉庫などの出件も依然として高水準で推移する。国内鉄鋼市場で大きな位置を占める建設用鋼材の需給も秋以降にはさらなるタイト化が見込まれている。10月から18年度下期に入るのを前に、供給側の鉄鋼メーカーや流通・加工、品種別、地域別などの視点で今後の需要動向を探る。

高炉

 18年度の建設用鋼材内需は、旺盛な建設需要を背景に堅調に推移している。下期には土木用鋼材の需要期を迎えることから、これまで以上に旺盛な需要が期待される。

 国土交通省の建築着工統計によると、直近6月は工場・事務所・倉庫・店舗などを中心に建築案件の着工は引き続き好調に推移。同月の非住宅向け鉄骨造の建築着工床面積は367万平方メートル、1~6月の累計で1932万平方メートルといずれも08年のリーマン・ショック以降で最高水準を記録した。

 物流倉庫や工場案件に加え、東京五輪・パラリンピック関連や首都圏の再開発案件も活発で、今年度の鉄骨需要量は530万トンが見込まれ、引き続き500万トンを超える水準が続きそうだ。

 H形鋼は、外法一定H形鋼を中心にメーカーの生産が追い付いていない状況にある。また、プレスコラムは大型案件が集中したこともありフル生産の状況が続く。ロールコラムも大型サイズを中心に需給はタイトでフル生産の状況と、各品種で需給がひっ迫している。

 土木分野は、公共予算の減少により官需は減少するものの、鋼管杭はエネルギーや道路、鉄道など民間の大型プロジェクトの増加で今年度は50万トン規模と高水準の需要が見込まれている。鋼矢板も官需の減少や東日本大震災関連需要が落ち着いたことで本設需要は減少が見込まれるが、民需の増加を背景に仮設向け需要が旺盛で、昨年度並みの需要となる見通しだ。

 下期に向かい、建築分野では中小案件の需要が増加傾向にある。また、土木の需要期となることから鋼矢板生産の増加が見込まれており、メーカーのロールは一段とタイト感が強まる見込み。需給のさらなるひっ迫に加え、原料や輸送費など諸コストの増加を背景にメーカーの売り腰は強く、下期も値上げの動きを加速させていきそうだ。

電炉

 鉄筋用棒鋼の国内需要は減少傾向が見込まれる。先月9日、普通鋼電炉工業会(会長・明賀孝仁合同製鉄社長)は18年度の鉄筋用小形棒鋼の国内需要(国内向け出荷)を743万6千トンとする予測を発表した。前年度比2・4%減と2年ぶりのマイナスで、4年連続の800万トン割れを見込む。

 その要因は建築向けの減少。17年度後半から鉄筋コンクリート造(RC造)の着工床面積が大きく落ち込んだことを反映したもので、明賀会長は「今後の出荷の落ち込みにつながる可能性がある」と先行き需要に強い警戒感を示した。

 建築向け鉄筋需要の予測値は、建築着工統計の増減が平均6カ月のタイムラグを経て国内向け出荷に反映される想定で推計される。

 RC造の着工床面積は17年11月から前年同月比で大幅なマイナスが目立つ。その結果、17年度のRC造の着工床面積は2283万平方メートルと1963年度(昭38)以来、54年ぶりの低水準を記録。くしくも前回の東京五輪があった64年を控える時期と同レベルまで低迷し、2020年東京五輪後の鉄筋需要を不安視していた電炉メーカーに衝撃を与えた。

 RC造低迷の背景には鉄骨造(S造)への需要シフトが挙げられる。着工床面積全体に占めるRC造の比率は、17年度が17%と5年前の12年度に比べて5ポイント低下。一方、S造の比率は17年度が38%と4ポイント上昇している。

 その理由について普電工では「学校や病院の建物でS造化が進み、従来はRC造が主流だったホテルも近年はRC造比率が3割を下回る」(明賀会長)と分析。特にホテルは急増する訪日外国人(インバウンド)対応で小規模物件が短工期のS造で建てられているとみる。

 東京鉄鋼と伊藤製鉄所の資本提携、合同製鉄による朝日工業の友好的TOB(株式公開買い付け)と、関東地区の小棒メーカーでは事業基盤を強化する動きが加速している。人口減少に伴う建築需要の縮小が避けられない中、S造シフトという需要構造の変化に鉄筋メーカーは危機感を強めている。

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