第1回 AEDは心臓を止める装置! 正しい心肺蘇生法

 

皆さんこんにちは! 防災オヤジーズ隊長の熊谷です。クマと呼んでください。
今日は、一般にもかなり普及したAEDについてお話いたします。女性の方も「私は防災オバーズだから関係ない」なんて思わずに、最後まで読んでくださいね。

AEDは、Automated External Defibrillatorの頭文字をとったもので日本語では自動体外式除細動器と訳されています。講習テキストやweb等でAEDを調べると概ね以下の内容で解説が始まります。

AED:日本語名は自動体外式除細動器。心停止(必ずしも静止ではない)の際に機器が自動的に心電図の解析を行い、心室細動を検出した際は除細動を行う医療機器(ウィキペディア)。

なんだか、難しいですね。心室細動とは、不整脈の一種で、心臓の心室が小刻みに震えて全身に血流を送ることができない「けいれん」しているような状態を指します。心臓が収縮する特定のタイミングで胸に衝撃が加わることで、この心室細動になることがあるようです。心臓が停止すると、血液のポンプとしての役割が果たせず、助かるチャンスは1分経過するごとに約7~10%ずつ失われ、約10分後にはほとんどの人が死に至ってしまうと言われています。

私は1995年に東京消防庁の消防団に入団しまして、約10年以上前に消防団で上級救命技能認定の講習を受け現在に至っております(3年以内に再講習受講の必要あり)。地元の町会の皆さんにAEDの使用方法を防災訓練の際に指導したり、またビジネスで企業や団体の指導も行っております。

指導し始めたころ、AEDの機能に疑問を持ちました。というのも、昔、あるTVドラマ(海外の医療系)で、救命医療の現場で心肺停止の患者に電気ショック(通電)を行うと、すぐに心臓が動き出すシーンを見た記憶があるからです。
心臓が通電後に直ぐに動き出すなら、なぜ、上級救命技能認定の講習では、通電後に胸骨圧迫を行うように指導しているのか?通電しても心臓は直ぐに動かないのではないかと疑問を持ちまして友人の外科医に聞いてみました。

すると、通電はけいれん(心室細動)を止めるために行う、だから除細動器というのだと教えられました。けいれん状態で胸骨圧迫をしても、ほとんどの場合は心臓のポンプ機能が回復しない。したがって、けいれんを止めて胸骨圧迫を行うことが必要なんですね。

思わず私は、「ではAEDは心臓を止めるために通電するのか」と聞きましたら、その通りと言われました。かなり強烈なショックを受けました。

そこで、TVドラマをもう一度、見直してみると、他の多くのシーンでは、通電後にきちんと胸骨圧迫をしておりました。最初に見たシーンは、たまたま時間の調整で、胸骨圧迫が抜け落ちていただけだったのです。最近の国内の医療ドラマでも、かなり忠実に再現してますので、皆さんも注意して見てください。

AEDの講習では、必ず最初に受講者の皆さんに「AEDは何の機器ですか」と質問します。ほとんどの人は「停止した心臓を回復する、あるいは動かす機器」と回答されます。小さな誤解ですが、とても危険な認識です。

私は、必ず「AEDは心臓を止める機器です」と受講者の皆さんにお話しします。なぜなら、こう話すと、その直後の胸骨圧迫がとても大事であることが理解してもらえるからです。AEDの講習では、胸骨圧迫を極めることが最大の課題です!ここをしっかり覚えておいて下さい。

心臓が動いたかどうかは自分で判断

では、AEDの機能概要を見てみましょう。

AEDは、ある意味、検査機械のようなものでもあります。電源を入れ(最近は自動起動)パットを装着すれば要救助者の心臓の状態を素早く検査します。
完全に心停止していれば「胸骨圧迫をしてください」と「通電する必要がない」ことをアナウンスしてくれますので機器が言う通りに動いてください。
けいれん(心室細動)状態であれば「電気ショックが必要です、充電しています、離れてください、通電ボタンを押してください」と通電の指示をアナウンスします。

通電後は「胸骨圧迫を始めてください」と指示があり、一定時間後(2分後)に「状態をチェックしますので離れてください」となります。

 

この時、すでに心臓のポンプ機能が回復していたとしても、あるいは停止していても、けいれんの細動がなければ「通電をする必要がない」とアナウンスされます。AEDは、「心室細動」か「速い心室頻拍」があるか、ないか、だけしか判断してくれません(一部のメーカーのものでは、心室頻拍を測定するものもあるそうですが)。ですから自呼吸があるか、意識が戻ったかは、自分で確認・判断してから胸骨圧迫をするしないを決めなければいけません。

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実践!倒れている人を発見したら

では、倒れている人を発見、あるいは通報連絡来てからの手順を見てみましょう。今回は通常のAED受講であまり教えてくれないことを中心に示します。

シーン1道路の向こうで倒れている人を発見(または通報があり現場へ向かう)

 

 
さぁ、あなたはどう行動しますか? 映画のヒーローのように行き交う車を身軽にかわしながら道をわたって、すぐに心肺蘇生をしますか?

ノーです!この時大事なことはいきなり要救助者の傍へ行かないこと。倒れている原因がわからないので、まずは自分の安全確認を行います。左右前後、上下を確認し倒壊物や落下物、車両などの進入、あるいは刃物や銃器を持った不審者がないかを確認。周りに人がいる場合は車両の侵入阻止などの交通整理を行ってもらうことも必要です。人を助ける場合、救助者であるあなたの安全確保が一番大事だということを頭に叩き込んでおいてください!

もう1点、2人以上で複数人が倒れている場合は、明らかに交通事故や倒壊物などが原因である場合を除き、いきなり接近することは大変危険です。有毒性ガスなどの発生も考えられます。2人ならかなり注意して近寄る、3人以上なら近寄らないことが大切です。煙、臭気、刺激などを感じたら消防隊到着まで見守ることが必要です。その際、必ず風上に移動してください。特に建物内部や電車の車両内等の密閉空間では注意が必要です。もう一度言います。「救助者の安全確保が一番大事」です。

シーン2安全が確保できてAEDを使って心肺蘇生を開始

では、安全が確保できたとして、AEDを使ってみましょう。
これは、あえて説明しなくてもいいですね。You tubeでもいろいろ教材が出ていますので、不安な方は見て学習してください。AEDメーカーや行政など信頼できる機関の教材を使ってくださいね。
倉敷市がとても分かりやすい映像を作っています。

あえて何点か捕捉しますと、危険な場所、濡れている場所での救命処置は2次災害の元です。より安全な場所へ移動します。移動の際は要救助者のケガ、骨折、特に頸椎の保持に気を付けてください。
要救助者の下がマットやベッドのように柔らかい場所は胸骨圧迫の際に、十分な圧力が心臓に届かない場合がありますので注意してください。堅い床に移動したほうが良い場合があります。

それから、このビデオにもありますが「あなた、AEDを探して持ってきてください」の時に、他に何人かいれば「あなたとあなた、AEDをそれぞれ持ってきてください」と複数確保できるよう指示をすることもコツです。予備がある方がベターです。持ってきたAEDが不具合で救助できないケースが過去にありました。

それから最も重要なことを言いますね。それは、通電時には絶対に要救助者には触らないことです。触ると、あなたがショックで死んでしまうかもしれません。

実際の映像を見てみましょう。有名なオーストラリアのライフセーバーの動画です。

救命処置の継続時間はどうするか。
大規模災害時など救急隊が速やかに来ない、あるいは来ない場合にどの位で救命処置を断念するか大変悩みます。20分、30分、1時間。できれば、何人か交代しながら可能な限り続けることが重要だと思いますが、元救急隊員に聞いたところ「子供に30分蘇生処置をして息を戻した例がある」ということなので、自分なら最低30分は続けたいと考えてます。
皆さんはいかがでしょうか? やってみればお分かりになりますが、長時間続けるためには交替、交替で胸骨圧迫を行わないと、とても体力が持ちません。

ところで10分以上胸骨圧迫をしていると、要救助者の血液中の酸素が消費され酸欠状態となるとのこともあるようです。以前の心肺蘇生では胸骨圧迫を30回後に、マウス・トゥ・マウスを2回行い酸素を補給しておりましたが近年では、マウス・トゥ・マウスはせずに胸骨圧迫を連続で続ける手順を教えることが多くなっております。これは、通常の場合で119番通報から10分ほどで救急隊に引き継げることと、感染症防止の観点からだと思います。が、大規模災害時では救急隊到着は時間がかかるか来ません。個人的には、やはりマウス・トゥ・マウスも必要になると思います。

ちなみに、2015年に改訂された「JRC 蘇生ガイドライン 2015」では、「訓練を受けていない市民救助者は、胸骨圧迫のみの CPR(心肺蘇生) を行う。訓練を受けたことがある市民救助者であっても、気道を確保し人工呼吸をする技術または意思がない場合には、胸骨圧迫のみの CPR を行う」となっており、さらに「救助者が人工呼吸の訓練を受けており、それを行う技術と意思がある場合は、胸骨圧迫と人工呼吸を 30:2 の比で行う。とくに小児の心停止では、人工呼吸を組み合わせた CPR を行うことが望ましい」と捕捉されています。その意味でも、やはり訓練を受けておくことが必須でしょう。

最後に、先ほどの動画でもありましたが、居合わせた人(バイスタンダーといいます)に明確に指示を出すことが大切です。

「あなたは119番救急要請、電話してください。」

「あなたたち(複数)周囲の安全確保、車両を止めてください。」

「あなたとあなたはAEDを探して持ってきてください。」

「AED、胸骨圧迫のできる人はいますか。」

「近所でタオルや毛布(止血、体温保持、周辺からの目隠し用など)を調達してきてください。ポリ袋(手袋代用)もお願いします。」

「要救助者の容態変化を随時救急隊へ電話連絡してください(救急隊から119番通報者へ電話きます)」

などなど、実際に経験しないと、なかなか思いつかないことも多々あります。
経験者の話を聞いたり、自分なりのシミュレーション訓練を行うことで、未経験であっても練度をあげておくことができます。

AEDのボタンを押すだけでなく、あなたがた先頭に立って心肺蘇生ができるよう、あなたの勇気のボタンを押せるようにしておくことが最も大切です。

【参考】
「BCPのSOS」
第三者の目線でBCP診断をする「セカンドオピニオンサービス」
http://bcpsos.rescueplus.jp/

(了)

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