ふるさとの言葉

 バレンタインデーのチョコレート売り場で、「愛ばください」「恋いかがですか」というやりとりに目を白黒。もちろん、標準語に直すと、愛は「あれ」、恋は「これ」▲栃木県出身、長崎市在住の漫画家、のざわのりこさんの新刊「のざわのりこの長崎日記」から。「ロマンチック長崎弁」と題した愉快なエピソードだ▲お国柄を表す方言だが、同じ本県の中でも地域差は結構大きい。離島が多く近世期に多くの小藩に分かれていたためらしい。「長崎市に来てイントネーションが違うと言われた」と、先日出会った五島市出身の大学生が苦笑していた▲長崎市出身の筆者にとっては、かつて勤務した対馬の方言が忘れがたい。「よか」「暑か」と話していると、すぐに対馬の人間ではないと見抜かれた。地域に溶け込むうちに、自然に「ええ」「あちー」と口から出るようになった▲お盆が過ぎ、夏休みも後半。帰省したふるさとで方言にたっぷり浸った人も、相次いでUターンだろう。県内各地の駅で、港で、空港で、見送りの人と名残を惜しむ方言の会話が聞かれたはずだ▲売店でお土産をあれこれ買い求める人も多いだろう。そこでも「愛ばください」「恋いかがですか」というやりとりが行われ、他県からやって来た旅行者の目を白黒させているだろうか。(泉)

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