【現場を歩く】〈運用開始10年の「金属屋根マイスター制度」・元旦ビューティ工業白州技術センター〉スペシャリストを輩出技能継承と育成に寄与 高い「技術」と「品質」で社会の信用力培う

 金属屋根メーカーの元旦ビューティ工業は2007年から、厚生労働省の認可を受ける国際技能・技術振興財団(KGS)、同社の施工協力会社で構成する全国組織「全国元旦会」と共同で、金属屋根の優秀技能者を認定する「金属屋根マイスター」制度を運用している。建設業界で技能者の不足や、技能・技術の伝承が難しさを増す中、どう金属屋根のスペシャリストたちが研さんを積んでいるのか。白州技術センター(山梨県北杜市)で実施する講習会を訪ねた。(中野 裕介)

 今年7月24日。元旦ビューティ工業の白州技術センターでは第60回の講習会(実技)があり、金属屋根の施工現場で指揮を執る職長クラスの技能者6人が顔をそろえた。翌25日にかけて、実際の工程をイメージした設定時間内に、横葺き屋根材と縦葺き屋根材をそれぞれ仕上げた。

 受講者たちは、構内に展示するモックアップ(構造見本)に従い、各部材を問題なく納めなければならない。部材の多くは一定程度で予め加工されているものの、最終的には現場で一つ一つ細部にわたって作り込む。会場では元旦ビューティ工業に所属する経験豊富な講師が審査基準に則って採点。板金ハサミで鋼板を切ったり、工具でビスを留めたりする音が伝う一方、講師が仕上がり具合や作業状態をくまなくチェックする。真剣な表情で実技に臨む受講者を張り詰めた緊張感が包み込んだ。

 2日間のプログラムを終えると、受講者たちはレポートを提出する。その内容を加味し80点以上で「金属屋根技能者1級」が合格となる。金属屋根マイスター会の事務局がKGSに対象者を推薦し、KGSの審査を通過すると、金属屋根マイスターに認定される。

 実技講習に先立ち、取得希望者はマイスターとしての心得をはじめ各種制度や一般知識、材料、構造、クレーム対応、法律、労働災害、安全衛生などについて座学に臨む。1日の講習を受け筆記試験に合格すると実技講習の参加要件を満たす。

 当初は座学講習と実技講習を2泊3日で受講する日程で始動したが、受講者の大半が職長クラスということもあり、時間的な制約から断念する向きが少なくなかった。2年前からは座学の合格者が金属屋根技能者1級の実技講習を1泊2日で受講できるよう変更し、年8回実施している。

 実技講習の会場をめぐっては、白州技術センターに続いて、2011年4月に元旦ビューティ工業の岡山工場(岡山県津山市)に金属屋根マイスターの研修棟を新設。東西で受講できる体制を整えた。

 講習会は、技能者として心身を研さんする場であるとともに、横のつながりを生み、相互に情報交換を図る機会としても大きな意義をもつ。受講者には次代の経営者や幹部候補も多く、現場を統率する上で重要なリーダーシップを醸成する。資格の保有を給与に反映する職場では、士気高揚の一助につながっている。一連の取り組みを通じて磨きのかかった技能と技術が最高の品質を生み出し、建築板金の明日を導く。

 国際技能・技術振興財団(KGS) 1996年(平8)、建設や製造業の高度な技能の継承、発展を目的に、労働省(現在の厚生労働省)の認可を受けて設立。技能者の育成と社会的な地位の向上のための事業を実施する。昨年夏には、外国人技能実習生が帰国後も活躍できるための「チームリーダー育成通信講座」を開設するなど国際的な視点で同事業に参画している。

 KGSは少子高齢化の影響もあり人材不足が顕著な「ものつくり」や建設の現場に対し、若年層をはじめ将来の担い手に魅力を知ってもらう教材や普及の在り方の研究開発に取り組む。その一環で金属屋根部門について、ものつくりの部門で優れた技能をもつ対象者を顕彰するマイスター認定制度を運用している。

金属屋根マイスター制度の意義/全国元旦会顧問落合喜彦氏に聞く/匠の腕でお客様に喜ばれる「ものつくり」を実現

 元旦ビューティ工業の施工協力会社で構成する全国組織「全国元旦会」の元会長で、金属屋根マイスター制度の立ち上げから携わる、落合喜彦顧問(落合工業所会長)に活動の意義や新旧の取り組みについて聞いた。

――2007年に第1回の講習会を開催して以来、10年余りが過ぎた。

 「金属屋根マイスター制度は、国際技能・技術振興財団(KGS)と事業を実施する元旦ビューティ工業、全国元旦会の会員をはじめとする専門工事業、そして各社に所属する技能者(職人)が協力して高品質なものつくりを実現するために、三位一体でつくられた仕組みだ。現在、全国で金属屋根マイスターの資格取得者は177事業所、247人に上り、ひとえにKGSのお陰と心より感謝申し上げる」

――着実に金属屋根マイスターを世に送り出すなか、現在の率直な思いは。

 「若い職人たちの技術水準が非常に低下してきている。どのメーカーも材料を簡単に取り付けでき、収められる製品を作っているのに対し、取合納めや役物の加工、納めなど、技能や技術が必要なところも多い。これらの施工が屋根の良し悪し、ひいては建物の評価につながっていく」

 「ひるがえって元旦ビューティ工業の製品は、ほとんどが手間をかけずに納められ、絶対に雨漏りしないものばかりだ。施工マニュアルに沿って対応できる技能者が施工すれば、人件費を削減でき、仕上がりもきれい。それが故に、どんな優れた製品であっても、施工するわれわれ職人に相応の知識や技術が伴わなければならない」

――職人の腕が問われる金属屋根に対し、マイスターの役割とは。

 「技術と品質を追求した製品と優秀な施工技術によって、お客様に喜ばれる『ものつくり』を通じて、社会での信用力向上を図り、技能の継承と育成につなげる。金属屋根マイスターは匠の技術を取得した方々を指し、いつ、どんな建築現場にも速やかに対応できるばかりか、素晴らしい技術や技能をもって世の中に立派な貢献でき、信頼性の向上に努められる方々であると確信している」

――金属屋根マイスターは、さらなる業界の発展に欠かせない。今後はどのような展開を考えているのか。

 「元旦ビューティ工業の全製品を取り扱うには、『金属屋根マイスターの資格取得者を置かなければ購入も施工もできない』と指導していきたい。『雨漏りしない、させない』という根本的な考えによるところが大きい」

 「全国元旦会の会員各社においては、確実に1事業所1人以上は資格取得者が在籍していなければならない。ここ数年のうちに全国で千人以上の優れた技術者を置き、『さすが元旦製品であり、優秀な職人たちだ』と世の中に認識して頂けるよう推し進めていきたい。同時に国土交通省をはじめとする関係省庁や地方公共団体などにも金属屋根マイスター制度を認知していただけるよう努めていく」

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