【CH鋼線メーカー現状と展望4】〈山本製線所〉極細需要を捕捉 小ロット・短納期への対応強化

 山本製線所は1937年(昭12)に東京都・板橋で創業した老舗鋼線メーカー。線径2~3ミリの細径加工の設備に特化し、時計ネジやベアリング用のリベット材などの伸線加工を主力としている。材料となる線材(ロッド)は全量が神戸製鋼所だ。創業時は製本用の鉄線を製造し、当時から細径鋼線の製造技術、ノウハウを蓄積してきた。

 同社の拠点は越谷工場と加須工場の2拠点で、1970年に現在の越谷工場に移転。加須工場は2010年に建設した熱処理工場で、20トンのSTC炉を保有する。越谷工場の熱処理を加須工場に集約し、コスト削減、省エネ対策を進めた。また工場間のデリバリーも内製化して、物流費の削減にも努めている。

 近年同社が注力しているのは、線径1ミリ以下の極細径の分野だ。山本正社長は「線径3~4ミリは競合メーカーや海外品が多いが、1・5ミリ以下は日本でしかできないものが多い」と、同社の持つ細径加工の技術力、ノウハウに強みを見出す。

 CH鋼線は主にボルトなどの部品に加工されて、自動車関連向けの需要先が大半を占める。この分野では大手線材加工メーカーや海外メーカーらがしのぎを削っているが、細径、極細径の分野は競争相手が少ない。

 細径鋼線には特有の製造技術、ノウハウがあり、特に精密部品に使われる極細物は表面の品質要求が非常に厳しい。水引鉄線の細物などは錆びやすいため、同社では品質管理や検査体制を徹底して品質の安定化に努めている。

 「寸法精度や表面処理の品質改善は常に行っている。近年は受注環境の変化に伴い、線径0・6ミリ以下の引き合いが増えてきた。様々な産業分野で軽量化や小型化への移行、〝軽薄短小〟の流れが加速しており、CH鋼線の分野でも細径、極細径のニーズはこれからも増え続ける」と先を見据え、これからも細径加工の設備投資を増やしていく方針だ。

 また小ロットや多品種化への対応、短納期といったサービス面の強化も合わせて進めている。

 「細径、極細径の分野はニッチな市場であり、販売を増やしても数量はそれほど伸びない。量を追うのではなく、小ロットや多品種化への対応、短納期といった高付加価値な事業で利益率を追求していきたい」と大手メーカーとの差別化を図る。

 「顧客に信頼される製品を提供することを目標に、〝安定品質〟、〝短納期〟、〝小ロット〟の対応を第一に、これからも小回りの利くメーカーとして、顧客満足度向上に努めていきたい」。(伊藤 健)

(このシリーズは不定期で掲載します)

会社データ

 ▽本社所在地=東京都板橋区

 ▽代表者=山本正氏

 ▽資本金=3500万円

 ▽売上高=24億円(2018年3月期)

 ▽拠点=越谷工場、加須工場

 ▽年間生産量=1万8千トン

 ▽従業員=40人

 ▽主要品種=冷間圧造用炭素鋼線、各種合金鋼鋼線

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