【ニュースの周辺】〈欧グレンゲスと三菱アルミ、北米合弁事業の交渉打ち切り〉グレンゲス大規模投資に躊躇 三菱アルミ、北米展開の戦略見直し

 自動車熱交換器用アルミ板最大手のグレンゲス(本社・スウェーデン)と三菱アルミニウムの北米における合弁事業の交渉が打ち切られた。「交渉のテーブルに着いた時点に比べて事業環境が変化しており、大規模投資に対するリターンの確実性が担保できなかった」(グレンゲス)ことが大きな要因という。世界2位の自動車市場で、ともに自動車熱交換器材の供給力強化を目指した両社は北米戦略を練り直すことになる。

 昨年に合弁交渉入りしてから、両社は幹部や実務担当者レベルでの交渉を重ね、北米でグリーンフィールドから新工場を建設する絵を描いてきた。自動車熱交換器材のサプライヤーが不足している北米市場。製造拠点は持っているものの自動車熱交換器材の販売余力が足りないグレンゲスと、拠点を持たない三菱アルミの2社共同で新工場を持ち、リスク分散することは両社にメリットがある計画だった。

 特に北米市場においては、需要不足は大きな話題だった。サプライヤーが限られる同市場の、自動車・エアコン熱交換器用アルミ板の市場規模は年間20万トン。このうち約4割弱が輸入材で、その3分の2に当たる5万トン弱が中国からの材料と推測されている。この中国材(熱交換器材含む箔)に対して米国は昨夏、AD・CVD関税を賦課したため市場に入りづらくなった。またトランプ政権がアルミ製品に10%の追加関税を賦課したことで日本や欧州、東南アジアの製品も相対的に競争力が低下し、米国に工場を建設するメリットは高まっている。

 それでも新工場建設を踏みとどまったのは、投資回収の見通しが立てられなかったからだ。好景気が続く米国では人手不足や建設資材の上昇などを背景に建設費用が高騰。投資額が想定を上回る可能性が高まっており、グレンゲスも「投資に対するメリットが低下した」としている。

 今回の決断で新工場を共同運営する可能性がなくなったことを受け、両社は戦略を練り直す必要になる。

 グレンゲスは2016年、破綻したノランダ・アルミナムの圧延部門の資産を取得して米国市場に参入し、現在は米国に四つのアルミ板工場を保有している。もともとノランダは、包装・容器用箔やエアコン熱交換器材がメインだったため、グレンゲスはノランダ圧延部門を取得後、自動車熱交換器材の生産にシフトする計画だった。しかしながら既存分野の需要が想定外に好調だったため、自動車熱交換器材シフトに遅れが発生。直近の北米市場における販売比率はエアコン熱交換器材が48%、包装用箔が22%の一方、自動車熱交換機材は3%にとどまっており、供給力強化が課題となっている。

 こうした背景もあり、三菱アルミとの合弁交渉を進める一方で、同時期にハンティントン工場(テネシー州)に1億1千万ドルを投じ、年産能力16万トンから20万トンへの増強を決断。さらに5月には停止中のニューポート工場(アーカンソー州)を再稼働させると公表したほか、ソールズベリー工場(ノースカロライナ州)の休眠ミルの再稼働も検討している。米国で3工場合計の生産能力を19年中に年26万トンにすることを決めている。この能力増強分を自動車・エアコン熱交換器材や一般箔に充て、地場サプライヤーとしてシェアを広げていく方針だ。

 一方で、今中期計画中に北米展開を目指していた三菱アルミにとっては、戦略の実行が一歩後退することとなった。グレンゲスとの協業の可能性は今後も探っていくとしているが、当面は品質問題の再発防止を通じた国内基盤の再構築に取り組んでいくこととなる。

 立ち位置が全く異なる両社だが、今後も連携が取れるかどうかを検討していくことでは一致している。依然として先行きは不透明だが、北米での事業強化は今後も両社のテーマになりそうだ。

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