僕がそこへ行く理由 第2回:損をすると思う方を選びなさい

ウガンダを訪問する加藤医師

ウガンダを訪問する加藤医師

パイロットの夢をあきらめ、途上国で活動する医師になる——。15年にわたって援助活動に携わってきた国境なき医師団(MSF)日本会長の小児科医・加藤寛幸医師が、援助の現場で得た、大切な出会いや経験を綴る全13回の連載です。

※2018年4~6月、静岡新聞「窓辺」に連載された記事を掲載しています。
 

不安や孤独を抱えた学生時代から長い年月がたち、2017年、バングラデシュの難民キャンプに赴く加藤医師

不安や孤独を抱えた学生時代から長い年月がたち、2017年、バングラデシュの難民キャンプに赴く加藤医師

子どもの頃からの夢だったパイロットは、視力低下のために高校3年生で断念せざるを得ませんでした。何とか気持ちを切り替え大学に進学したものの、新しい目標を見つけられずにいた頃、体調を崩し入院することになりました。自分の身体のことが何もわからないということが腹立たしく、そこから医学への関心が芽生え、大学を中退し医学部を再受験しました。

しかし、いざ入学してみると、医学への興味や関心は長続きせず、母子家庭に育った僕は、高級外車を乗り回す周囲の友人を横目にアルバイトに汗を流しました。「医者になったら金持ちになってやる」なんていう思いが頭をかすめたのもこの頃です。そんな6年間はあっという間で、卒業が迫る頃になっても「なぜ自分は医師になるのか」という問いに明確な答えを見出せていなかった僕は、案の定、国家試験に不合格となりました。

昼間は保育園でアルバイト、夜は勉強という生活を送るようになって半年が過ぎた頃、僕の中に不安や孤独感が芽生えていたのでしょう。気がつくと、いつか友人と行ったある教会を訪ねていました。そこでその後の人生を変える一つ目の出会いに恵まれたのです。医師としての進路に悩んでいた僕に、教会の世話役を務めていた女性が語った言葉は、「損をすると思う方を選びなさい」でした。
 
得することばかりに躍起になっていた自分を恥じると同時に、それまでの価値観を粉々にされたように感じたことが懐かしく思い出されます。
 

僕がそこへ行く理由 これまでの連載を読む

第1回:1人の少女との出会い 
第2回:損をすると思う方を選びなさい

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